■私が米国にいた時に友人からよく質問されていたことですのでちょっと出てきました。
■多分このテーマを正確に記述しようとすると本が一冊書けるぐらいの分量になると思いますが、ご質問に即してできるだけ簡潔に書いてみます。
■日本語で用いる漢字の発音は大まかに言って「呉音」「漢音」が大半です。「呉音」は平安期以前に朝鮮半島経由で入ってきた読みで仏教文化などと密接に関係しているもの(例:供養=くよう、精進=しょうじん)
「漢音」は平安期に「唐」に渡った留学生が伝えたもの。その頃既に「漢」は滅んでいたわけですが、民族的な意味で「漢族」の言葉として正統な読みと見なされて固定化されたのです。しかし、その後日本語の発音は非常に変化する一方で中国においても大きく発音は変化していったことから、現在の中国語での発音とは全く違うものになったということです。
「急」の日本における発音の変遷:kipu→kifu→kyu
「急」の中国における発音の変遷:kip→ki→ti
■確かに漢語と同じ意味で用いられている熟語は多いと思いますが、「音読みならば全て元は中国にある」というのははっきり誤りである、と説明すべきですね。
■現代日本語の音読みの熟語が全て中国語でも同じである訳はありません。「保険」という連語は中国語では「安全」に近い意味合いだであって日本人が認識している語義は本来ありません。このような例は明治期以降に発案された「翻訳語」に多いものです。従って中国語に逆輸入された日本人の発明した熟語も数多くあります。(「神経」など)
■むしろ昔の日本人が漢字を使ってどのように日本語を書き表す工夫をしたか、を説明するのが一番理解を得るアプローチではないでしょうか?
■まずはルーツとして日本語と中国語には言語的な関連がないことをはっきり説明した方がよいでしょう。
■文字をもたなかった日本人が漢字を知って何とか日本語の表記を行おうとして
【1】音だけ借りて日本の単語を表記した(「万葉集」なんかですね)
【2】漢字の意味に注目して和語を当てはめて読んだ(訓読みですね)
【3】外来語として漢語を熟語の読み・意味ともに取りいれた、という使い方を混ぜておこなったわけです。
■さらにご存知の通り【1】から平かなカタカナが形成されていって今日に至っているのです。
■日本語における漢字の使用は、移入された平安期以降は殆ど中国とは接点がなく独自の道を歩んだことと漢字をどのように使おうとしたかをポイントとして説明されるのがよいと思います。
■ちなみにもう一つ、日本語での熟語にはやたらに「同音異義語」が多いことをご説明になると興味を持たれると思います。日本人が「コウテイ」と聞いてたちどころに文脈から「肯定」なのか「皇帝」なのか「高低」なのか頭で判断しているのは漢字の熟語をイメージしているからなのですね。あなたはコウテイを幾通りの違う熟語として書けますか?
お礼
ご回答ありがとうざいました。大変勉強になりました。 説明のポイントまで、アドバイスしてくださって、感謝しています。 中国に逆輸入された熟語もあるなんて(しかも「神経」みたいな言葉が)、意外でした。 言われてみると、確かに同音異義語が多いですね? 以前、韓国人の知人に、ハングル表記だけで紛らわしくないか質問した時に、 「日本語ほど同音異義語がないから大丈夫」と言われたことを思い出しました。