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新潮文庫のo・ヘンリ短編集(2)を読んでみた感想
- 比喩が多く使われていて、読みごたえがある一方で、結末がはっきりしない作品も多かった。
- 「睡魔との戦い」では、主人公が睡眠を我慢することで聞こえるようになった悪口が実は真実だったという展開があり、興味深いストーリーとなっている。
- 「詩人と農夫」では、主人公がお金を見せびらかして何をしようとしているのか、また結末の詩の意味が理解できないという疑問が残る作品である。
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答えやすいところから。 > 「マディソン~」前半の送られて来た手紙と写真の意味がわかりません。 これは自分の妻に対する匿名の密告の手紙です。 で、その手紙を読んで、チャルマーズは疑心暗鬼にかられた。 ところで、画家であるチャルマーズは不思議な特技を持っていました。人の心の奥底に秘められた悪徳を描きだしてしまうのです。そこで、彼は自分が夕食に招待した見ず知らずの男に、自分が描いた妻の肖像画から、どんな性質がうかがえるか、と尋ねます。 すると、客は「天使の顔」だと答えます。この瞬間、チャルマーズの妻に抱いた疑惑はあとかたもなく消え失せます。 > 「睡魔との戦い」眠らない為に言われた悪口が事実だった?でも覚えてないはずでは? 悪口は事実です。小説ではひとつ約束事があって、嘘だと書いてないかぎりは、それは真実なのです。トムはうつらうつらしていて、私の話を断片的にしか聞けていません。それでも、断片的にでも聞いていると考えて、私は悪口をいいまくるのです。 あまり覚えていない、でも、故郷に残した彼女のことは彼の中に入っていく。無意識のうちに気にかけていたからでしょう。だから、何を言ったかはっきりとは覚えていないけれど、故郷に恋人を残していたことは記憶の底から浮上してきて、だから私にお礼を言うのです。 > 「詩人と農夫」田舎男は950ドルをみせびらかして何をしようとしていたのですか? それは言うとおりのことです。商売をするために、出物を探していたのです。 ところが、いかにも田舎ものといういでたちの乾し草君を見て、詐欺師たちは、あれは自分たちの同類にちがいないと考えます。ちょうど、唐草模様のふろしきを背負い、ほおかむりをしている男が、泥棒ではありえないとみんなが思うのと同じです。 ところが自分のお金を行く先々で偽札扱いされた乾し草君は、一念発起してスーツを作り、りゅうとしたいでたちに変身します。すると、その瞬間にカモられた、という話です。 詩の話は、これとパラレルになっています。田舎暮らしの詩人が、田舎の風景を飾らず読んだら、あまりに技巧的すぎる、といわれた。そこで、今度は編集者をからかってやろうと、仲間うちの都会っ子の詩人に、田舎の詩をかかせた。すると、編集者は掌を返し、自然児ならではの表現である、と誉め称えた、ということです。 ありのままは誰も信じない、逆に、真実を隠そうとしたその瞬間、真実は自ずとあきらかになってしまう、という話です。この中では、これが一番よくできてるかな。 > 「ハーレムの悲劇」殴られて喜ぶ妻なんて本当に居るのですか? これは、ほんとうにはいないから、あえて作者がこんな設定をしたと見るべきでしょう。 カシディ夫人はDVの被害を、逆に愛のあかしと友人に自慢して見せます。フィンク夫人は疑いながらも、まるで疑問に思っていないカシディ夫人のようすを見て、妻を殴ることこそ、男らしい男の証かもしれない、と次第に思うようになってくる。カシディ夫人は自慢を続けます。そうしてフィンク夫人は自分が愛されていないのではないかと危惧するようになる。そうして家事をしてくれる夫を、男らしくない男として恥じるのです。 むしろ、人間はこんな愚かなとりちがえすらしてしまう、ということでしょう。質問者さんは、自信たっぷりに宣言する相手の言葉に、一瞬、自分の方がまちがっていたかも、と思うことはありませんか。こんなふうに取り違えてしまっているから「悲劇」なんです。 本を読むときは、何が起こったかを丁寧に拾い上げながら、同時に、登場人物は何を思ってそんなことをするのだろうと頭を働かせなければなりません。 最近の小説は全部説明してあるのも結構あるんですが、文学作品の多くは、作者は宝物を埋めておきます。読者に掘り出してもらうために。 だから、読書というのは、作者と読者の共同作業なんですね。 もう少し質問者さんもゆっくり、時間をかけて、丁寧に読む癖をつければ、わかってくるかなあ、と思います。 以上、参考まで。
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- ghostbuster
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ひとつ忘れていました。せっかくだから、読解してみましょう。 > 「臆病な幽霊」息子が扮していたのはわかるのですが、キスのくだりなどわかりません。相手の夫人は若いのでしょうか? p.166に「若手の花形」とあります。さらに「彼とのことも解決するにちがいないと思った」とあります。 では、この「彼とのこと」というのはなんでしょうか(本を読むときはこういう伏線に対する感度を上げていかなくてはなりません。おっ、ここで作者は仕掛けをしているな、という具合に)。 すると、つぎのパラグラフで、キンソルヴィング家の息子テレンスは「なかなかの好男子」とあります。これはヒント1. 「彼の孝行ぶりは人目をひくほど一風変っていた」これがヒント2. 「じれったくなるほど無口で、臆病なのか、それともずるいのか、容易にわからなかった」これがヒント3. さらに「この青年は、ベルモア夫人の興味をひいたが、それというのも、彼がそのどちらなのか、はっきりしないからだった。…もうしばらく彼を観察してみようと思った」という文章が続きます。これが先にあげた「彼とのことも解決するにちがいない」という箇所に対応しています。 この中で、ヒント2.は、あまりベルモア夫人の関心とは関係がありませんから、読者に対する伏線と見るべきでしょう。これが、のちのち彼が幽霊に扮する根拠となっていきます。 ヒント1.は、ベルモア夫人が興味を持つ根拠です。 ヒント3.は、ラヴ・アフェアを仕掛けて、それに応じられるかどうかというベルモア夫人の判断です。臆病ならば、ラヴ・アフェアを仕掛けてもムダ。ずるい相手とそんな関係になれば、のちのち自分にとって不利なことになりかねない。その結論を出そうとしているわけ。 ベルモア夫人がキンソルヴィング家に滞在することにしたのは、何よりもテレンスが目当てだったわけです。 ひとつ知っておいた方が良いのは、かつてヨーロッパの貴族階級では、恋愛というのは既婚女性と若い男性のあいだで成立するものだったということです。当時の貴族は政略結婚ですから、美しい未婚女性はできるだけ権勢のある貴族に嫁ぐ。そうして結婚後に初めて若い貴族青年と恋愛をするんです。ここらへんの事情は鹿島茂の『明日は舞踏会』(中公文庫)に詳しい。やたらおもしろい本ですから、ご一読を。 さて、アメリカには貴族はいませんでしたが、独立戦争を戦ったオランダ系移民が中心になって上流階級を形成します。この話にでてくるのも、そういう人びとです。彼らにしても、やはりそういう伝統を引き継ぐんですね。自身もその階級の出身だったイーディス・ウォートンの『エイジ・オブ・イノセンス』にも、主人公がかつてそんな関係を結んだことがあることが、それとなくほのめかされています。 で、こういうことを頭に入れて読んでいきます。 まずシンプキン夫人は、成金であるキンソルヴィング家(おそらくアイルランド系)の出自をバカにして、先祖はレンガを運ぶような仕事をしていた、と言いたいがために、幽霊の話をでっち上げます。 それに対抗するために、キンソルヴィング夫人は、いまや上流階級の中心人物とも言えるべきベルモア夫人に、そんな幽霊などでなかったと証言してもらうために、招待します。 ベルモア夫人はキンソルヴィング家の長男テレンスに興味があります。そこで招待に応じるわけです。 テレンスはベルモア夫人に、立派なみなりをした幽霊を見たことにしてくれないか、と頼みに行きます。そこでベルモア夫人は独立戦争を戦った先祖がいたのではないか、とヒントを与えます。独立戦争を戦った先祖の幽霊となって、自分の部屋に夜、忍んで来い、とほのめかしているのです。 そこでテレンスは衣装を借りて、幽霊に扮して夫人の部屋に行くのですが、彼は幽霊として「出た」だけで、何もせずに帰っていきます。 ベルモア夫人はテレンスの希望通り幽霊を見たとみんなに証言します。けれどもふたりきりのとき、幽霊は自分にキスをした、と言うのです。 テレンスは驚きます。もちろん、自分はそんなことをしていないのですから。けれどもベルモア夫人は、あえてそういうことを言って、テレンスによく似た幽霊なら、自分にキスしたってかわまない、となぞかけしているのです。臆病でない、というか、そうした遊びに慣れている男性なら、そのチャンスを逃さないはずがない。ところがテレンスはどうしてそんなことを言うのだろう、ととまどうばかりで、夫人の真意に気がつかない。 彼が幽霊に扮したキンソルヴィング大尉は、ヨークタウンの戦いで負け、部隊と共に逃亡したと話します。それに対して夫人は「もう一度戦えばよかったのに」とつぶやく。 部屋から退散したテレンスに、いまこうしてチャンスをあげたのに、という意図がこめられているのです。
お礼
非常に良くわかりました!もういちど読んでみます!ありがとうございました!