まあもう十分回答が付いてるけど一つだけ抜けてるから言っておくと、殺人罪であり得る最短の刑は1年3ヶ月だよ(実際にそこまで下がることは非常に珍しいが)。
法律に書いてある刑を「法定刑」って言うんだ。これは殺人罪では死刑または無期もしくは5年以上(20年以下)の懲役というのは既に回答がある。そして、加重減軽という処理があって、一定の事由があるとこの法定刑を増やしたり減らしたりする処理をする。その結果出てくるのが「処断刑」って言うんだ。その事件で実際に基準になる刑のことだね。その処断刑の範囲内で最終的な刑を決めるんだけど、その最終的な刑のことを言渡す刑という意味で「宣告刑」と言うんだ。実際に判決で被告人を懲役何年に処すって告げる刑のことね。そして処断刑の範囲内で宣告刑を決めることを量刑と言う。
んでね、加重事由は重くする方だから無視するとして、減軽事由は二つあるの。一つは法律上の減軽、一つは酌量減軽。既にある回答で過剰防衛って話があるけどこれは法律上の減軽の事由の一つなの。他にも自首減軽なんかがある。法律上の減軽事由はいくつあっても一回しか減軽できない。ちなみに減軽というのは簡単に言えば法定刑の上限と下限を半分にすることね。
だから、殺人罪でも例えば自首すれば、有期の懲役は2年6月以上10年以下にできるの(なお、自首減軽は裁判官の任意だからしないこともできる)。そして酌量減軽は法律上の減軽とは別に行えるから、更に酌量減軽すれば1年3月以上5年以下になるのね。法律上は殺人罪ではこれが最も軽い処断刑。後はこの範囲で実際の宣告刑を決めれば良い。
とまあ、法律的にはこうなるんだけど、実際には判決がここまで下がることは極めて珍しい。
なぜかは、酌量減軽という制度の実際の意味を考えればすぐ解る。酌量減軽という制度はそもそも、処断刑が重すぎる場合に最終的な調整をするための規定だから。もう少し具体的に言うと、執行猶予を付けるのが妥当な事件で処断刑の範囲では執行猶予を付けられない場合に執行猶予が付けられるところまで処断刑を下げるためにあるといって過言でないものだから。
つまり、加重減軽してでてきた処断刑の範囲では執行猶予が付けられないがその事例の事情からすると重すぎるということがあり得るのね。量刑における情状の考慮というのは、処断刑の範囲内でしか行えないのでそもそも処断刑が重すぎるという場合には、量刑での情状の考慮では不十分なの。そこでどうする?って言えば処断刑自体を下げるしかない。その最後の手段が酌量減軽なの。だから、法律上の減軽をして2年6月まで下げたがそれでもまだ重い、あるいは法律上の減軽事由がないという時に初めて酌量減軽をして処断刑の範囲を妥当なものにするというのが酌量減軽の意義なの。だから、法律上の減軽事由によって十分軽くなっているならあえて酌量減軽をする必要はないってことね。
そして2年6月まで下げられればとりあえず執行猶予は付けられる。だからどうしても更に酌量減軽をしなければならないということはないのね(昔、尊属殺重罰規定が違憲となった理由はここにある。法定刑が死刑または無期懲役だけだったので、無期懲役を選んで法律上の減軽をして更に酌量減軽しても、処断刑は3年6月以上の懲役にしかできないので執行猶予が付けられなかった)。つまり、現実的には法律上の減軽事由がなくて執行猶予が付けられる範囲まで処断刑の下限が下げられないときにこそ威力を発揮するってわけだ。
だから逆の言い方をすれば、酌量減軽をするのは執行猶予を付けるためだと言っても良いくらいなの(もちろん必ずそうだというわけじゃないけどね)。
もちろん、法律上は、酌量減軽をした上で、しない場合の処断刑より重い判決にしても構わない。例えば自首減軽と酌量減軽をして処断刑を1年3月以上5年以下にしておきながら、自首減軽だけの場合の下限である2年6月よりも重い3年の懲役を言渡すことは(実際にするかどうかはともかく法律的には)違法ではないよ。その事件に対する裁判所の評価を明確にするためにこのような判決の仕方をすることもあり得ないではない。
お礼
ども、最低限六法全書をまず見るべきでしたね。