獣医師でウイルスに専門知識を有しています。
「殺菌剤」というのはあまり使わない言葉なのですが、消毒薬のことを指していると受け取ってよろしいのでしょうか。
狭義の抗生物質である「抗菌剤」と紛らわしい言葉ですし、消毒薬は"菌"だけでなく広範囲な病原微生物に有効なので、「殺菌剤」という言い方は通常しません。("菌"である真菌にはたいてい効かないし)
ま、消毒薬のことであるとの前提で回答します。
消毒薬は他の方の回答でも出ていますが、酸やアルカリによって物理的にウイルスや細菌の構造蛋白を壊すことで殺菌または殺ウイルス効果を示します。
これも他の回答にありますが、エンベロープを持つウイルスは、脂質膜であるエンベロープを壊せば感染性を失うので、エタノールでも容易に死滅します。エンベロープというのは、ウイルスが感染した細胞内で増殖し、細胞の外に出る時に細胞膜の一部を奪って行くものだと理解して頂ければ良いでしょう。
エンベロープを持たないウイルスは、ウイルスのカプシド蛋白そのものを壊さなければ失活できないのですが、その蛋白質の構造によって消毒薬や熱に強いモノと比較的弱いモノがあります。
(エンベロープの有無はウイルス種毎に決まっていて、細胞内で増殖したウイルスが"どのように"細胞外に出て行くのか、という方法と密接な関係があります)
一般的には、エンベロープを持つウイルスはエタノールで容易に失活し、消毒薬や熱にも弱く、エンベロープを持たないウイルスはエタノールでは失活できず、消毒薬や熱にも比較的強い傾向があります。
最強の部類に入るのはノロウイルスやロタウイルスでしょう。消毒薬は塩素系しか効きませんし(逆性石鹸などはほぼ無効果)、熱にも非常に強いです。
インフルエンザウイルスは、どちらかというと弱い方から数えた方が速いウイルスです。
「殺菌剤」が抗菌剤の意味でしたら、インフルエンザだけでなくウイルスには効きませんので使用されていません。(二次感染防止などの副次的な使用はある)
抗菌剤は細菌に特異的な代謝系を阻害することによって殺菌あるいは静菌作用を示すモノです。ウイルスは「代謝」をしませんので(増殖に伴う構造or非構造蛋白の合成や遺伝子の複写は"代謝"ですが、その代謝はウイルスではなく感染した宿主細胞が行っている)、ウイルスに効く抗菌剤は存在しないわけです。
抗ウイルス薬というのもあります。インフルエンザに対するタミフルやリレンザが有名ですね。
これはウイルスに特異的な増殖に必要な酵素(タミフルやリレンザの場合はノイラミニダーゼ)を阻害することによってウイルスの増殖を抑える薬剤です。なので、抗菌剤がある程度広範囲な細菌に効果があるのに対し、抗ウイルス薬は"そのウイルスにしか効かない"ことになります。
お礼
「殺菌剤」とわかりにくい表現を使ってしまい、すみませんでした。 エタノールを意味しておりました。 それにも関わらず、親切にご説明いただき、有難うございました。 エタノールの有効性は、構造蛋白の破壊だと理解できました。 わかりやすいご回答、有難うございます。