• ベストアンサー

移行抗体を保有しているときの不活化ワクチン

移行抗体を保有しているときの不活化ワクチンについて質問です。 犬のワクチンについて調べていたところ、移行抗体がまだ残る時期の不活化ワクチンは移行抗体のせいで効果がほとんど無いという記述を本で見かけました。 ところがさらに調べていくと産業動物用(ブタ)の某ワクチンメーカーのHPで、不活化ワクチンは移行抗体の影響をあまり受けない(全くではないが)という記述を見かけたのです。 実際確かに犬はワクチンを2ヶ月目くらいから生ワクチンで打つことが多いようですし、ブタは生後すぐ打つワクチンは不活化ワクチンが多いようです。 このまったく正反対の記述の違いには何か理由があるのでしょうか? 免疫の原則が一緒なのであれば、人間のワクチンの知識のある方からのアドバイスもお願いいたします。

質問者が選んだベストアンサー

  • ベストアンサー
noname#160718
noname#160718
回答No.3

 獣医師です。犬の方はさして詳しくありませんが。  まずワクチンの種類について簡単に説明します。  ワクチンには大きく分けて生ワクチンと不活化ワクチンがあります。  生ワクチンというのは「生きた病原体」を抗原として接種する方法です。当然野外株のような強毒型だとそれで病気になってしまいますので、弱毒化しています。  不活化ワクチンというのは「殺した病原体」を抗原として接種します。  つまり生ワクチンは体内で増殖するため、接種する抗原量(菌量またはウイルス量)は少なくて済むのです。不活化ワクチンは体内で増殖しないため、接種した抗原量だけで免疫を誘導しなくてはなりません。  そのため不活化ワクチンは生ワクチンと比較すると単位あたりの抗原量は多く設定されていますが、それでも1回の接種では抗体の誘導が十分でないことが多く、2回接種が基本的な接種法となっています。  2回接種というのは、免疫記憶がある状態で同じ抗原の侵入があると、抗体価の上昇が早く抗体価そのものも高くなる、という"ブースター効果"を利用した方法です。  従って、生ワクチンの方が"接種する抗原量"は少ないため、移行抗体や過去の感染抗体がある程度以上残っていると、その抗体に排除されてしまって結果的に免疫誘導が不能になることがあります。これを「ワクチンブレイク」と言います。  不活化ワクチンは接種する抗原量が多く、またアジュバント化されているものも多いため、ワクチンブレイクは比較的起きにくいというのが一般論です。  そのあたりの事情は犬猫でも人間でも産業動物でも基本的に変わりません。  ただ、ワクチン効果の考え方として、産業動物は「群」を単位で考えます。同居している10頭にワクチン接種をしたとして、数頭は数頭はブレイクされて抗体価が上昇しなかったとしても、例えば7-8頭の抗体が上昇していれば、「このワクチン接種は適切」と考えます。それぞれの個体が病気になるかならないか、ではなく、「その群に流行が起きないか」を判断基準とするためです。  犬などの愛玩動物の場合は、個体が基準になりますよね。  移行抗体の消長時期は、非常に個体差が大きいです。犬だと早い個体で40日そこそこで抗体が消失しますし、長いものだと半年近くも移行抗体を保持しています。  従って、100%効果が期待できる接種法というのは、実は存在しません。早い日齢で接種すれば移行抗体によりブレイクされるリスクが増し、遅い日齢での接種では「抗体の空白期間」ができてしって感染してしまうリスクが増します。  これは産業動物でも愛玩動物でも同じです。  質問者さんが目にした真逆の表現は、どの時点のどのレベルの移行抗体のことを言っているかが違うだけではないでしょうか。  移行抗体の有無といっても、「あるかないか」というシンプルなことではなく、当然のことながら「どのくらいあるか」が重要なわけです。移行抗体が存在しても抗体価が十分低下していればワクチンによる抗体のテイクは期待できるし、まだ高ければ期待できないわけです。  質問者さんが補足に挙げられたリンクは、どちらかというと獣医師向けのテキストです。どんなワクチンも移行抗体が切れる頃を狙って接種するのですが(完全に切れてからだと空白期間が生じてしまいますが)、その設定時期だと移行抗体が残っている個体があっても"多くの場合は"ワクチン効果が期待できるレベル、という意味ですね。  犬の方の記述は、愛犬家などの一般の方を対象にしたテキストであれば、当然「移行抗体が残っているとワクチン効果は期待できない」という表現になると思います。  というわけで、「想定する読者対象が違うために生じた真逆の表現」である可能性も高いと思います。  他にワクチン効果を左右する条件としては、そのワクチンの製法によって同じ移行抗体価でもブレイクされやすかったりされにくかったりということはあり得ます。  また、移行抗体の消失時期も感染症毎に多少異なります。それは感染が起きた時、あるいはワクチン接種を受けた時にどのくらい抗体価が上がるかが感染症毎に違うため、当然その抗体が新生仔に移行した時の抗体価も異なり、すなわちその移行抗体が消失する時期も異なるわけです。  もちろんそういったパラメーターは、ワクチンが開発される時に調べられて製法、抗原量、接種時期が設定されているわけです。これとて全ての個体に間違いなく効果がある、というものではありませんが、概ね7-8割は効くはず、というあたりで設定されているはずです。  間違いがない接種をしたければ、まず抗体検査をして移行抗体の状況を把握してから、ということになるのでしょうが、これも容易ではありません。  それにはまず、移行抗体価が日齢と共に低下する"傾き"を知らなければならないのですが、それが1回の抗体検査で確実に知ることができないのは自明です。十分な検体数による文献でもあれば日齢とその時点の抗体価が判れば、「何日齢くらいで消失しそう」というかなり高精度な予想ができるのですが、そういう文献がない疾病もけっこうあります。  また、その感染症に対して「どのくらいの抗体価があれば感染防御できるのか」というデータも必要です。その感染防御に必要な抗体価は疾病によって異なりますから。  この2つのデータがあって初めて「今の日齢でこの抗体価ということは、何日後くらいに感染防御レベル未満まで移行抗体が低下するだろうから、その2週間前にワクチンを接種するのがベスト」などという「間違いのない接種計画」を立てることができるわけです。  でも、そこまで調べてくれる獣医さんもなかなかいないでしょう・・・私も自分が専門に調べている疾病以外は判らないですから。  なので結局は、ワクチンメーカーが推奨する接種法が確率的に最もリスクが少ない、ということになりますね。  子犬のウイルス感染症で致死率が高いのはパルボでしょうか。学生時代に実験犬にパルボが入ってしまい、子犬はほとんど全滅してしまったことがありました。

noname#88207
質問者

お礼

丁寧に詳細なお答えありがとうございました。 産業動物とペットの違いがこういうところにもあるのかと非常に勉強になりました。 ペットの飼い主も(人間でもそうだと思いますが)ワクチンが単純にいいとか悪いとか言う前にこういう背景を知った上でワクチンを考えるべきでしょうね。

その他の回答 (2)

  • taro1121
  • ベストアンサー率43% (178/409)
回答No.2

真逆の考え方 産業動物と小動物(ペット)の考え方の差ではないでしょうか ペットの場合、効果が100%に期待出来ない場合、その手法はボツ しかし、産業動物の場合、70~80%効果があればOK 移行抗体と不活化ワクチンとの関係は補足の中の牛のページに詳しくあるのでで省略します 付け加えるなら、多くの不活化ワクチンはアジュバンド化され、効果が長続きするように出来ている また、ワクチンのブースター効果(一回目の抗体の上がりに拍車をかける)を考え、移行抗体が消えたころ2回目のワクチン接種があります また、移行抗体が期待出来ない疾病に対して、生後すぐ接種という手法もあります (ある疾病の移行抗体が残っている場合、そのワクチンを早期に接種しても抗体の上がりは余り期待できません) どのような接種方法を選択するかはその疾病の発病予測を立て、それが出る前(抗体の上がり具合を計算し)何日齢(何ヶ月齢)で接種すべきかを考えます それが移行抗体半減期であればアジュバンド化による長持ちを期待して接種します 犬の場合、ウイルス疾患で子犬の死亡はあまり聞きません 無理をして移行抗体の残っている時期にワクチン接種をしないのだと思います

noname#88207
質問者

お礼

簡潔なお答えありがとうございました。 産業動物と小動物での考え方の違いが大きいというのはよくわかりました。

  • tunertune
  • ベストアンサー率31% (84/267)
回答No.1

ブタがというよりは、その不活化ワクチンがという意味なのではないでしょうか。 生ワクチンに比べ不活化ワクチンは高濃度で使われるので、多少移行抗体が残っていても影響を受けにくいのではないでしょうか。 >産業動物用(ブタ)の某ワクチンメーカーのHP HPを示していただけるとありがたいのですが。

noname#88207
質問者

お礼

ありがとうございました。 疑問を解決する事ができました。 最初に参照サイト載せれず申し訳ありませんでした。

noname#88207
質問者

補足

>tunertune様 ありがとうございます。 ↓メーカーのページより(17行目あたりです) http://www.jp-nisseiken.com/science_info/navac_pdf/navac_010.pdf ↓その他このようなページ http://jliadb.lin.go.jp/qa/cgi-bin/result.pl?677+3+7 http://www.agri.pref.hokkaido.jp/kaho/hapyo/2007/14.pdf いずれも話の中で「不活化ワクチンは」移行抗体の影響をあまり受けないようなことが書かれています。 もし、不活化ワクチンが移行抗体に対する影響が少ないというのが事実であれば、どうしてイヌで真逆の考え方があるのか理由が知りたかったのです。(イヌのほうで参照にしたのが、本というより一般向け冊子のようなものなので怪しいといってしまえばそれまでですが。。。)

関連するQ&A