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「人間の絆」の原題について

今、モームの「人間の絆」を読んでいるのですが、その原題について疑問に思うことがあります。 まず、Of Human Bondage となっていますが、この語順には何か意味があるのでしょうか?邦題の感じだとBondage Of Human のような気がするのですが…リズム感の為で深い意味はないのでしょうか? それから、bondage と言う単語には調べると 絆 というよりも 束縛 という意味があるようなのですが、これはただ訳す時に感じのいい言葉を採用したのか、それとも英語でbondageを絆と言う意味で使うことがあるのでしょうか? くわしいかた、教えてください、よろしくお願いします。

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回答No.2

これは新潮文庫版の中野好夫のあとがきによると、「エチカ」第四部「情念」論の見出しは「人間を奴隷にする絆について」から来た、と記されています。 おそらくモームは原文のラテン語ではなく、英訳を読んだのではないかと思うので、Gutenberg で検索してみると、この部分のタイトルは "Of Human Bondage, or the Strength of the Emotions" となっています。 中野好夫は同じくあとがきのなかで ---- 人がその情念を支配し、制御しえない無力な状態を、私は縛られた状態と呼ぶ。なんとなれば、情念の支配下にある人間は、自らの主人でなく、いわば運命に支配されてその手中にあり、したがってしばしば彼は、目前に善を見ながら、しかも悪を追わざるをえなくなる。 ---- と引用していますが、これはこの章の冒頭部分に相当します。 Human infirmity in moderating and checking the emotions I name bondage: for, when a man is a prey to his emotions, he is not his own master, but lies at the mercy of fortune: so much so, that he is often compelled, while seeing that which is better for him, to follow that which is worse. http://www.gutenberg.org/catalog/world/readfile?fk_files=37010&pageno=6 ただしこのbondageは通常「隷属」と訳されることのほうが多く、手元には『エチカ抄』しかないのですが、そこでは第四部のタイトルは「第四部 人間の奴隷状態、あるいは感情の勢力について」と訳されています。 通常この作品は『人間の絆』と訳されるのが一般的ですが、かならずしも原題の"Of Human Bondage" の正確な訳とは言えないでしょう。 内容も、そもそも「絆」という言葉は人間の関係を指すことが多いと思うのですが(あるいは一種の擬人化)、この作品における bondage がさすところは、人間関係ばかりとはいえないように思います。 邦訳の初出がいつかはわたしにはちょっとわかりませんが、たとえばジェーン・オースティンの"Pride and Prejudice"が『高慢と偏見』と題されたり(中野訳では『自負と偏見』)、エミリー・ブロンテの "Wuthering Heights" が『嵐が丘』、さらには "Anne of Green Gables" が『赤毛のアン』と題されたり(おそらく主人公のアンがこの邦題を見たら泣くでしょう)、日本で定着しているタイトルはかならずしも正確な訳ではないように思います。 以上何らかの参考になれば。

peetswee
質問者

お礼

詳しいご回答ありがとうございます。 あとがきまで読めば、ヒントがあったのですね。 丁寧にご説明くださってありがとうございます。 Gutenbergというサイトははじめて知りましたがすごいですね。 邦題に訳すのはむずかしいんでしょうね。必ずしも直訳がいいとは限らないですし… いろいろありがとうございました。

その他の回答 (2)

  • Big-Baby
  • ベストアンサー率58% (277/475)
回答No.3

まず、Of Human Bondageという英語表現についてですが、このOfは前置詞で「~について」という意味、Humanは名詞Manに対応する形容詞で「人間の」という意味で名詞Bondageを修飾します。Bondage Of Humanでは英語になりません。Bondage Of Manならかろうじて意味が取れないこともないですが、やるとすればMan's Bondageでしょう。さて、つぎにBondageの意味ですが、#2の方の回答を参考にして調べてみました。哲学者スピノザの「エチカ」の第4部の原題(ラテン語)は De Servitute Humana、これはやはり「人間の隷属について」と訳すべきでしょう。次のスピノザ研究者のHPを参考にしてください。[Deは前置詞で(~について)、Servituteは名詞で(隷属)、Humanaは形容詞で(人間の)という意味です] http://www11.ocn.ne.jp/~mare/frame6.html このラテン語 De Servitute Humana を英語に訳したものが Of Human Bondageですから、これもやはり「人間の隷属について」という訳が適当ではないかと思いますが、「絆」という訳語も許容範囲内ではないかと思います。

peetswee
質問者

お礼

ありがとうございます、とてもすっきりしました。 humanは形容詞だったのですね!名詞ととらえていました。 英語力の問題ですね…(汗) スピノザのHPよく見てみようと思います。 ありがとうございました。

  • noname002
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回答No.1

決して詳しくはなく英文にも至って疎い者ですが、モームは私が十代から二十代にかけて、よく読んだ好きな作家の一人ですので飽くまで呼び水代わりに参加させてくださいネ。 さてOf Human BondageとBondage Of Humanとではbondageという単語の重みが変わってくると感じられませんか。 Bondage Of Humanの場合ですとbondageという単語ひとつが殊更に強調される。しかしHuman Bondageの場合は「人間の」という条件が並列されてきます。 つまり「絆」ということを前面に押し出すのか或いは「絆」何の。「人間の」ということです。犬やら猫やら、その他の生き物たちにも共通の「絆」じゃない「人間の」絆なんです。そういうことじゃないでしょうか。 またbondageという単語の意味は仰るとおり束縛、拘束、ひらたく言えば「しがらみ」というような意味でしょうが、これを日本語に、そのまま置き換えますと「人間の束縛」「人間のしがらみ」となりますね。やはりリズム感も変わってきますが字面の美感にも些か影響してくるように思われます。 英語の「絆」に相当するのはbondsとかtiesになるようですがbondsに束縛, 拘束という意味もありtiesには縛るという意味もありますが、これらの英単語に通常必ずしも否定的な意味はないそうです。となるとモーム作品のbondageは否定的な意味合いが込められていそうですが、日本語の「絆」には、どちらかというと肯定的な気分がありますよね。 邦題に置き換えるとき、より語感の良いことばや抑揚を考慮するということは文学作品以外でも、よく見受けられます。 辞書によれば日本語の「絆」には、断つことのできないつながりとか、或いは動物をつないでおく綱という意味もあるそうですので、そこからbondage本来の持つ束縛、拘束、しがらみと繋げたものではないでしょうか。 むしろ英語のカテゴリで御質問なさったほうが良かったかもしれません。 拙い説明で失礼しました。

peetswee
質問者

お礼

ご回答ありがとうございます。 しがらみ だと、束縛と絆の両方をふくんでいて納得しやすいです。なるほどと思いました。 絆のほうが語感が題名に似合っているので、選ばれたのでしょうね。