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チャウシェスクの落とし子―ルーマニア孤児の運命とは?
- 「チャウシェスクの落とし子」という漫画には、ルーマニア人の双子の殺し屋が登場します。
- 双子はチャウシェスク時代の人口政策により孤児院に入れられ、ルーマニア革命後に海外に売られます。
- 彼らは性的搾取を受けた後、スナッフムービーで殺人を演じることになり、快楽殺人者となってしまいます。
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正確には違います。 たしかにルーマニア孤児院にいる子供達は、チャウシェスク政権による人口増加政策の申し子達だと言えます。ただ、国営孤児院の子供達の多くがその後、性的搾取のために売られたかというと、これは違うかと思います。実際に売られたりさらわれたりする子供は、貧しい家庭やストリートチルドレンの出身であることがほとんどのはずです。 今も、東ヨーロッパにおいて性的搾取を受けている(いた)子供達は多く存在します。もちろん、性的な目的以外にも強制労働のために売られていく子供や、高額な「手数料」の為にを払う「西側」の裕福な里親の元へ行く子供もいます。子供を売る家族の中にも、あまり考えずにそうしてしまう親も居れば、子供のためと信じて手放す家庭も居たでしょう。 当時ルーマニアにおける人口政策は「子供をもうける事は素晴らしい事である」という概念を前面に押し出しており、子供を沢山(十人以上)もうけた家庭には政府から新車や勲章などの特典が与えられ、その反面で妊娠中絶や離婚、避妊用具の配布など、人口低下につながる事項はよほどの事情で無い限り、実質的に禁止されていました。 その結果、確かに人口は増加したものの、大して改善されない貧困のためか生まれてきた子供達を支えられない家庭も多くなり、子供の放棄が多発するようになりました。対策としてルーマニア政府は孤児院を数多く建設しましたが、収容されなかった孤児達の一部はその後ストリートチルドレンとして街をうろつくようになったようです。 そしてこの状況に付け込んだのが、人身売買のブローカーです。元々彼らは戦乱や不況の影響を多く受けた地域から、後の「商品」を買うなり攫(さら)うなりします。ルーマニアでは貧困にあえぐ家庭に接触し、幾らかの金額を渡すの代わりに子供を引き渡すよう交渉したわけです。もちろん、ストリートチルドレンを確保するブローカーも居たであろうことは想像に難く有りません。 ですが、国営孤児院にもブローカーが接触したかどうかは不明です。確かに1990年代になって西ヨーロッパの注目を浴びるまでの孤児院の状況はずいぶんと酷かった様で、栄養失調や暴行(性的なものも含む)が横行していたとされています。ただ実際に孤児院出身の子供達が人身売買ルートに乗せられていったかどうかは分かりませんが、可能性としては低い方かと思います。 18歳になり、「成人」として社会に放り出されていく孤児院の子供達も大勢います。その中で、なんとか安定した生活を送れる者も居れば、ギリギリで生活費を稼ぐ者、ホームレスとなる者、社会に適応できずに死んでいってしまう者もいるようです。 ちなみに人身売買で売られた子供がスナッフムービーに出演していたかどうかと言えば、こういったフィルムが存在自体が議論の的であり、あくまで噂や都市伝説などの類の話題として存在しています。ですので、「スナッフ(殺人)ムービーの片棒を~」という部分に関しては、単に作者による演出と考えるべきでしょうね。 長文で失礼しましたが、参考になれば幸いです。 参考サイト: http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/4629589.stm(BBCのルーマニア孤児院に関する記事――英文) http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/4630857.stm(BBCの孤児院出身者のインタビュー――英文) http://en.wikipedia.org/wiki/Nicolae_Ceau%C5%9Fescu(英語版ウィキ-ニコラエ・チャウシェスク)
お礼
丁寧な解説、ありがとうございます。 確かに「スナッフムービー云々」は行き過ぎにせよ、似たように性的搾取されている(作中の言葉でいうと「変態どもの玩具にされている」)子供は多いんでしょうね。 結構真に迫った話だったんで、余計にそう感じました。 作中でも「誰かがほんの少し優しければ、あの子達は幸せになっていたのかもしれない。でも、そうはならなかったんだ。」というセリフがあります。 非常に心に突き刺さる言葉です。 ルーマニアに限らず、世界各地で似たような事象が起きているのかと思うと、何ともやりきれないですね。