インドの人口増加の背景には、男性優位社会の実態もあるのですが、これにはどなたも触れていらっしゃらないので、この面から少々コメントさせて頂きます。
UNFPA(国連人口基金)やWFP(世界食料計画)、あるいはPopulation Awarenessといった団体が等しく指摘していることですが、インドの人口増加の要因として、
(1)貧困とカーストシステムなどの不平等の存在
(2)セクト主義の暴力や原理主義的な政治体制
それに加えて
(3)男性優位社会という特性
が挙げられています。
一般にインドでは(州や地域差はあるものの)女性に対する差別が遍在しており、伝統的に男性の発言力が強い社会です。従って男の子を求める圧力も極めて高いものがあります。
人口の男女比の世界平均は、女性人口1000人に対して男性1015人ですが、インドでは1069人と極めて高く(2000年)、かなり改善されているとは言え、女子の間引きや堕胎もよく聞く話で、男の子偏重は数字に現れている以上の現実があると思います。数年前には、夫の火葬の時に一緒に生きたまま焼かれた妻の事例が報道されました。このような極端な例はもうさすがに少数でしょうが、女性や妻を所有物視する感覚は残っているでしょう。
女性1人が生涯に出産する人数は3.04人(2001年)とかなり下がってきましたが、生まれた女の子は未就学で子守りや家事手伝いに駆り出されがちです(男性の識字率65.5%に対し、女性のそれは37.7%と極めて低いレベル;1995年)。
従って、男性偏重社会→女子の教育程度が上がらない→女性の社会参画が進まない→女性の立場が保護されずに男性優位が温存される、という悪循環が生まれています。
そしてその結果、避妊手段やその知識が普及しないこと、暴力的な(あるいは一方的な)性交渉が減らないこと、低年齢での出産が多い(=生涯出産数が上がる)…などのために人口が増加することになるのです。
むろん、(3)の「男性優位社会」というのは必ずしもインドだけの問題ではありませんが、現実に上記の国連はじめ人口抑制を図ろうとする各種団体が、インドにおいて女性の地位向上運動を行う多くのNGOとの協調を図っているのは、大変特徴的だと思います。いわゆるジェンダー問題が人口問題と不可分に関係している、という認識があるからこその現実でしょう。
かつて1970年代中盤に女性であるインディラ・ガンジー首相が男性を主対象とした避妊・不妊策(精管結さくなど)を実行して人口抑制を図ろうとしたことがありますが、男性の猛反対であえなく撤退した経緯もあります。
以降は州レベルでしか人口抑制策はとられてこなかったのですが、パジパイ首相以下、現在の政権になって再び国レベルでの政策が実施され始めています。ただ女性に対して強圧的な施策もとりにくく、苦労しているようですが。
お礼
ありがとうございました.これで夜も眠れそうです.インドに旅行に行ったとき,どんな田舎の道をとおっても,ほかの国と違って絶対に人家があって,人々が生活を営んでいるのを見て衝撃を受けたのです.「この国は,どこまで行ったら人がいなくなるのか」みたいな.