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ピエゾ抵抗効果について
物体に応力を加えたときに電気抵抗が変化することをピエゾ抵抗効果というそうですが、金属および半導体におけるピエゾ抵抗効果が起こるメカニズムを教えてください。専門的内容になっても構いません。また、この場では詳しく説明できない場合は、参考書などを紹介していただいても構いません。よろしくお願いします。
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siegmund です. 最近難しい質問が多くて,突っ込まれるとところどころボロが出ています(^^;). 歪みとμや n の具体的関係は高度に専門的で,この分野のプロの領域の話でしょう, 普通の物性物理学者に聞いても 詳しい返事は返って来ないのではないかと思います. 大体,標準的な物性物理学のテキスト(大学院レベル)には まずピエゾ抵抗効果なんて載っていませんし... 私の知っていることだけ書いてご返事としたいと思います. まず,歪みとμとの関係です. 前の回答では簡単に,歪みが起こるとイオンポテンシャルが変化して... と書きましたが,本当は事情はもっと複雑です. 金属で原子から外殻電子が抜けますと残りが陽イオンになるわけで, 第一近似的にはそのイオンが周期的に並んでいます. これは結晶全体に圧力がかかって圧縮されたりしても同じことです. イオンがあると電子が動いたときにそのポテンシャルで散乱されて, 電気抵抗の原因になりそうな気がします. ところが,固体電子論で有名なブロッホの定理というのがありまして, ポテンシャルが完全に周期的であると電気抵抗の原因にはならないことが知られています. では,電気抵抗の原因は何かといいますと, 不純物の存在,およびイオンの格子振動です. 不純物がポテンシャルの周期性を乱すのは明らかでしょう. また,イオンの格子振動があればこれもポテンシャルの周期性を乱します. 常温付近ではイオンの格子振動の方が電気抵抗の主要原因です. したがって,結晶が一様に歪むと (ある方向にのみ歪んでも構わない -- 周期性は保たれますから), これが直接電気抵抗に影響するのではなくて, 格子振動の変化を通じて電気抵抗の変化(すなわちμの変化)にをもたらします. たぶん研究はあるはずですが,私は詳しくは知りません. もう一つ,半導体の場合の n との関係ですが, これは物質依存性が強そうです. つまり,バンド構造はポテンシャル変化の影響を強く受けます (だからこそ,半導体は物質によってずいぶん性質が違う). 特に違うバンドが重なるかどうかとフェルミ面がどこに来るかのあたりは微妙です. 実際,常圧では半導体ですが圧力をかけると金属的になるような物質は かなりあるようです. というわけで,具体的関係まではちょっと私の手に余ります.
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- siegmund
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簡単のため,電流を担っているキャリア(電子またはホール)が一種類とします. 電流密度は, キャリアの数密度 n,キャリアの電荷 ±e,キャリアの速度(の平均値) v, この3つの積です. トラックによる物資の輸送量が,トラックの台数,トラックの積載量,トラックの速度 の3つの積になるのと同じことです. キャリアの電荷は電荷素量ですから不変でピエゾ抵抗効果の議論には関係ありません. キャリアの平均速度 v は電場 E によりますが, あまり電場が大きくなければ電場に比例します. (1) v = μE と書いて,比例係数μを移動度(あるいは易動度)と呼んでいます. したがって,nμの振る舞いが電気伝導度(電気抵抗率の逆数)を決めることになります. 完全に自由なキャリアに電場がかかると キャリアの速度はいくらでも速くなってしまいますが, 固体内ではいろいろなポテンシャルによる散乱があるため平均速度は有限です. つまりポテンシャルによる散乱(衝突と思って結構です)を受けると, もう一回電場による加速のし直しが起こるのです. 固体に圧力がかかって歪みが起こると,平均のイオン間距離が変わったりしますから, 当然ポテンシャルも変化します. したがって,μ は固体の歪みの影響を受けます. 金属ではキャリアの数密度 n はほとんど一定なので, 金属のピエゾ抵抗効果の機構はポテンシャル変化を通じた μ の変化です. 半導体では様相が異なります. 半導体ではキャリアの数 n が (2) exp(- Δ/kT) に比例します. Δは半導体のバンドギャップ,k はボルツマン定数,T は絶対温度です. 歪みが起こってポテンシャルが変化しますと, 半導体のバンド構造が変わり,バンドギャップのΔの変化が起きます. (2)の因子は exp の中身の変化に非常に敏感ですから, 半導体の場合にはピエゾ抵抗効果はほとんど n の変化で支配され, 金属の場合よりはるかに効果が大きくなります. バンドギャップについては http://oshiete1.goo.ne.jp/kotaeru.php3?q=183166 の私の回答をご覧下さい. 電気抵抗の温度変化でも金属と半導体は様相が異なります. 温度が高くなるとμは小さくなります. したがって,金属は温度が上がるにつれて電気伝導率が小さく(電気抵抗率が大きく) なります. 一方,半導体では(2)からキャリア数が T の増加と共に急速に増加しますので, 金属とは温度依存性が逆で, 温度が上がるにつれて電気伝導率が大きく(電気抵抗率が小さく)なります. しかも,温度変化に敏感です. これを利用したのがサーミスター温度計です.
補足
ご回答ありがとうございます。 すっきりとした内容で、非常に分かりやすかったです。 もう少し深く知りたいので 「固体に圧力がかかって歪みが起こると,平均のイオン間距離が変わったりしますから, 当然ポテンシャルも変化します. したがって,μ は固体の歪みの影響を受けます.」 「半導体の場合にはピエゾ抵抗効果はほとんど n の変化で支配され, 金属の場合よりはるかに効果が大きくなります.」 の内容について、詳細(歪とμの変化との相関など)が分かる参考書などありましたらご紹介していただけると幸いです。手元にある半導体電子工学の本では詳しく載っていません。 よろしくお願いします。
お礼
詳しいご説明、ありがとうございます。 結局のところ、ピエゾ抵抗効果のメカニズムを知るということは、電気抵抗のメカニズムをかなり深く知る必要があることが分かりました。 ご回答いただいた内容を全ては理解できなかったので、このご回答をヒントにして、もう少し勉強してみます。 本当にありがとうございました。