長野県辰野町のホタル養殖政策
長野県辰野町松尾峡は、昔からゲンジボタル発生地として有名です。
しかし、松尾峡には1960年代に主として関西から大量のゲンジボタルが移入され、元々住んでいた地元ゲンジは増えるどころか、逆にほぼ絶滅したらしいことが最近の研究で明らかになっています。
移入ゲンジは在来ゲンジと遺伝的にも行動的にも発光周期も異なっています。つまり、1960年代をはさんで、違うタイプのホタルを見て(見せられて)いるのです。しかしながら、町はその区別なく放流飼育を繰り返してきた経緯があります。
全国ホタル研究会でも、この辰野町のホタル養殖による現地ホタルの生態破壊が問題となっています。対策を採るように研究者は申し入れていますが、役場から「この問題を、あまり公表しないでほしい」と言われ、かつ、対策も採られていません。
パンフレットや町のウエブサイト
http://www.town.tatsuno.nagano.jp/tatsunosypher/www/info/detail.jsp?id=1150
では、他県からの移入のことは触れられていませんが、実際には、上記のような他地域ゲンジの放流によって、地元のゲンジの生存が脅かされています。
役場の担当課長から、「観光客はホタルを見にきているので、全体としてホタルが増えればいいのであって、仮に、在来ホタルが減っても構わない」という、驚くべき発言もありました。
この問題は過去のことではなく、現在も続いています。昨年の簡単な調査で、松尾峡下流地域では、松尾峡からあふれ出した移入ゲンジが在来ゲンジの生存を脅かし、ある地点では既に9割が移入タイプとなっていることが判明しました。つまり、地元ゲンジが子孫を残せなくなっているのです。
たとえば、
www.geocities.jp/zenhoken/ZHJ_pdf31-40/ZHJ36_13-14.pdf
あるいは
http://www.shinshu-liveon.jp/www/topics/6020
で問題となっていることが見られます。
私たち研究者は、これが一種の環境問題だから、情報をオープンにして、研究者、役場の人、住民(そして観光客)など加わったフォーラムを開いて意見を言ってもらうべきだと、役場に申し入れました。しかし、何度言っても拒否されました。その最大の理由は、前述のように、この問題の歴史的経緯や上記学術的結果を公表してこなかったし、また公表したくないからです。地元産を増やしてきた、と強調している経緯があるからです。
役場は研究者に対しても、学会での議論は自由だが、一般公表は困ると言っています。研究者が、そのような要求(一般公表しない)は飲めないと述べたところ、今年(2009年)の調査は、このメール冒頭に述べた「辰野町ホタル保護条例」を盾に認められませんでした。
この問題は、国際的な生物多様性保護専門誌にも発表されました。
The ecological impact of an introduced population on a native population in the firefly Luciola cruciata (Coleoptera: Lampyridae)
Yutaka Iguchi
Biodiversity and Conservation
Volume 18, Number 8, 2119-2126
辰野町のホタル政策が生物多様性基本法に違反しているのではないか、ということを昨年(2008年)、長野県自然保護課に伝えたところ、自然保護課のS.S.課長が町に対し、
「松尾峡ホタルが町おこしに役立っていることは確かだが、生物多様性にも配慮を」
と指摘した、とのメールを私はS.S.氏から頂きました。
しかし、この法律は、罰則規定がないのです。
だから、生物多様性基本法に違反では、と指摘されても町役場は知らん顔。
そもそも、県庁から、上記指摘があったことも地元の人は知らないのでは・・・・。
移入ホタルに対する具体策というより、町の姿勢を皆さんどう思われますか?