この話は古い話です。
昔、サーモンは絶対に生食しませんでした。
刺身なんていう発想はなかった。
虫がいたからです。アニサキスですか。
あれが体内に入ると、人間の体をかじり始めて激痛で救急車というのがあったものです。
ところで、冷凍技術というものはありましたけど、冷凍食品は価値がないと言われ続けました。
解凍すると変な水が染み出てきて、なんとなく臭いし輪郭も崩れていてとても客には出せない。
せいぜいよく火を通してたべるしかないから、にんにくきかせてソテーにしたりコロッケにいれたりしたのです。
当然、この技術で魚を輸送するなんていう発想はなかった。
マグロなんか遠洋で採ったとしても、持って帰るうちにみすぼらしくなったからです。
だからマグロなんて高級魚じゃなかったし、大トロなんていう油のある部分なんて人間の食い物じゃなかった。
少なくとも現場にいる猟師にとっては極上のものだったけど、「リクではこんなもん食えんべな」というものでした。
ヘミングウェイの「老人と海」なんて、ようやくとった魚を持ってくる間に他の魚に皆食べられてしまった。
しかしあるとき以後これが変わった。
マグロ漁をするときに、急速冷凍と言う技術が導入されたのです。
船に持ちあがってきたマグロを瞬時に冷凍し、ブロック塊として持って帰ることができるようになりました。
これが、みなさんご存じの築地でよく画像を紹介されているマグロのセリの現場まで持ち込まれるのです。
そうすると、適切な解凍をすると、驚くような美味が出現しました。
この技術のおかげでクロマグロが絶滅危惧になるまでとり尽くされようとしているのです。
マグロはさておき、この急速冷凍技術を、たまたま海遊する鮭に適用して持ち帰ったのですね。
そして、猟師の命知らずというか、ためしに家でたべてみようかと思った。
食べてみたら、あ、いままで知らなかった猛烈な美味であることがわかった。
でもアニサキスはどうだろうか。
よく考えてみたら、冷凍した瞬間に死んだんじゃないか。
それで研究機関にしらべてもらったんですね。
で、想像の通り、アニサキスは皆凍死していた。
アニサキスの死体は非常に小さい虫なんでそんなに気にならないし、ひどい臭いや味もない。
ここで、いきなり「サーモンの刺身」というごちそうが発生したのです。
マグロと同じやりかたですから、解凍して包丁をいれるとすらりというきれいな切り身になります。
そういう歴史があります。
ところで、冷凍をすると組織が壊れたりします。
壊れることを目的とした料理手法の冷凍というのがありますが、玉ねぎやブナシメジが適用されます。
細胞膜が破壊されるため中の成分が強い火を使わなくても浸潤してくるというようなことを期待しているのです。
冷凍した玉ねぎの薄切りをフライパンで炒めると、普通なら1時間も2時間もかかってキツネ色をつくる作業なんだけど、5分でその状態になります。
家庭の冷蔵庫ではそういう魔法が使えます。
けど、細胞膜を壊してしまうのです。
しかし、マグロ漁の急速冷凍はそういうレベルではなく、組織自体を瞬時に凍結するため一切何も壊れない。
タイムマシンに入れるようなものです。
ここをよく了解してください。
冷凍するといいんだろうと思って家庭の冷蔵庫でやってもマグロ漁のものとは比較になりません。
だから、何でも冷凍しようとおもわないほうがいい。
解凍したものを再冷凍しないでくれ、としつこく食品に書いてあるのはその意味です。
その魚の状態で、一概にどちらが食中毒を起こすかは言えません。
お礼
ありがとうございます。