「ものさしを手渡ししてはいけない」ということは一部の地方や業界、さらには年配者の間では今も言われているようですが、日本国語大辞典(小学館)の「ものさし」の項目には、「江戸時代、これを手渡しすると不和になるという俗信があり、投げ渡すのが常であった」とあり、ご質問の古川柳が用例として載っていました。
また昔のことわざ辞典の類に「ものさしは手渡しにせぬもの」という項目があり、
「男女手づから授受せずの教えよりいでたる語、手渡しにすれば中あしくなるといふ」という説明がありました。「諺語大辞典(藤井乙男編)」(明治43年初版 有朋堂書店)
「俚諺大辞典(中野吉平編)」(昭和8年初版 東方書院) にも同様の説明がありました。
この「男女手ヅカラ授受セズ」は中国の古典「禮記」にあり、「孟子」でも言及されていますが、同じ辞典に「男女相互に手づから授受するは禮にあらず」と説明されているように、男女の間で直接ものの受け渡しをするのは礼儀に反するという意味です。裁縫に使うものさしは主に女性が使用するものなので、これを男性が女性に手渡しするのは当時は礼儀に反する行為だと考えられていたのでしょうか。この説に従えば「礼儀に反することを行ったので不仲になった」ということになります。
ひとまず「ものさしは手渡しにせぬもの」という理由の説明にはなりますが、「手ヅカラ授受セズ」は物差しに限ったことではないので、そもそも「なぜ物差しなのか」という疑問は残ります。またご質問の古川柳は姑と嫁の間の物差しの受け渡しと考えられていて、男女の間ではありませんのでこの点も疑問です。(もっともこれについては、通説に反して物差しを投げるのが姑ではなく例えば亭主など男だと考えれば一応つじつまは合いますが、そう解釈すると今度は「手を出さっせへと物差し姑出し」というこれと正反対の句との釣り合いが取れなくなります)
ここからあとは私の個人的な推測ですが、「男女手ヅカラ授受セズ」は、物差しの手渡しを忌避する習慣がすでに広く存在していた時代に、学者先生がこれを説明するために後から付けた理屈に過ぎないのではないかと考えます。
さらに現在では、昔からあった「物差しの手渡しを忌避する習慣」の起源や理由が「男女手ヅカラ授受セズ」説も含めて次第に忘れ去られたばかりか、そうした習慣が存在したことさえ知らない人が多くなっているのだと思います。
なお物差しには「物差しをまたぐことを忌避する習慣」もあり、昔の人は物差しに何か特別な力を認めていたのかもしれないとも感じます。
お礼
ご回答ありがとうございました。 長文でその他の例もご提示いただきましたのでこちらの方が ベストでお願い致します。 なるほど「物差しの手渡しを忌避する習慣」等の昔からの習わし後世に残せるように、これからのしっかりと学んでいきたいと思います。