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能の流派について
大学生です。 大学入学時に能楽部の新歓に行き、入部はしなかったものの、それ以来能を見るようになりました。 能の流派について二点質問があります。 (1)大学の能楽部って、「観世会」「金剛会」「宝生会」といったものが多いと思いますが、これらはシテ方の流派ですよね。 大学の能楽部でワキ方の流派のところってあるのでしょうか? (2)シテ方の能楽部でお稽古をする際、曲によってはワキ方の役者が必要な場合があると思いますが、そういう場合は誰が演じるのですか? シテ方の誰かが臨時でワキ方をやるのでしょうか。
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- tarohkaja
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もう一つありました。 素人が発表会をするときは、初心者は謡を 「連吟」 で、上級者は 「仕舞」 「舞囃子」 さらに上級者は 「能」 を (半能でも一番全部でも) やりますが、連吟にはシテの部分もワキの部分も素人が役を割り振って謡います。 仕舞や能では、「地謡」 も 「囃子」 「ワキ」 も玄人に出てもらうのが本来です。 能をやるとなれば、囃子が3人か4人、囃子の後見(楽屋の働き)、地謡8人、装束付けの楽屋の働き、シテ自分の後見は師匠ですが、主後見の他に小道具の出し入れなどにも後見がいります。 舞台の上で素人と玄人が共演するのではありません。 素人のシテ一人が舞うためには、まわりは全部が玄人でなければならないのです。 それに装束の借用料金は、婚礼の貸衣装料金よりもはるかに高い値段です。 これだけのギャラですから、財閥の道楽、もっとさかのぼれば大名の遊びだったのです。 札差だとかの江戸の超金持ち町人がこれをやって、「闕所」 になた例もあります。 大学のクラブであれば、装束料もギャラも、「学割料金」 がありますし、社会人でも、大病院の院長夫人だとか大企業の大株主でなければできないということでは、社会的に存続できませんから、サラリーマンでも楽しめるような工夫はあります。 家元制度は、一人の金持や大名が 「抱える」 のではなく、大勢で月謝を払って分担するという江戸時代の町人の知恵でした。 大衆芸能はギャラで飯を食えます。 なになに御殿も立てられます。 ファインアートは食えません。 夏目漱石は朝日新聞に高給で迎えられたのだし、森鴎外は軍人として高い位に上ったのであり、原稿料でメシを食ったのではありません。 石川啄木は貧窮のうちに死にました。 ゴッホもそうです。 大衆小説不倫小説を書いて儲ける人はいますが、ファインアートでは食えません。 ヨーロッパでは、メディチ家や貴族やバチカンが芸術家を庇護し育てました。 日本でも寺院や大名が芸術家を庇護しました。 そこで大金持ちではない、そこそこの金持の町人が大勢で月謝を分担してはらって芸術家を庇護するというのは、面白い知恵でした。 明治以降は財閥が担った能を、戦後は江戸の町人の知恵が産んだ家元制度が支えたのは、面白い現象です。 これからどうなっていくのか、 能楽師はどうやって飯を食っていき、安くはない能装束を新調したり、使い道の限られる能舞台という劇場をどうやって維持していくのか、難しいところです。
- tarohkaja
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早稲田にワキ宝生のサークルがあるとは初めて知りました。 稽古は、師匠にも重労働です。 「素人稽古はしない」 というシテ方も、たくさんではないけどいます。 玄人には稽古をつけるが、それなりの腕前になっていない人の稽古はやってられない、 ということがあります。 流儀の重鎮の人で、高弟と言われる人にだけ稽古をつける、プロであっても駆け出しのプロには稽古をつけない。 20代の若手プロは、50代の先輩プロに稽古をつけてもらいます。 50代の先輩プロは、60代70代の流儀の重鎮に稽古してもらうのです。 高校球児でも、プロ野球の練習にみんながみんなついてはいけないでしょう。 ファンのための子供野球教室ならば、シーズンオフにやるけれども、日常のレギュラーシーズン中に草野球にコーチをしてやるプロ選手はいません。 ワキ方では、人に稽古をつけられるレベルの人が、プロの中でも大勢ではない、プロを養成するための稽古はしたい (プロになりたい弟子は取りたい) が、今の若手プロに稽古をつけるのが精いっぱいで、素人稽古はする暇がないのでしょう。 ただ、素人稽古の教授料が、能楽師の主要な収入で、舞台のギャラではないのです。 ワキ方は、その人数比の通り、シテ方の舞台に引っ張りだこですから、素人弟子をとって教授料を稼がなくともいい、ということもあります。 すべての能楽師は、シテ方の謡と囃子の修業もします。 シテ方は狂言はやらないようですが、囃子四拍子 (笛・小鼓・大鼓・太鼓を総称してしびょうし) の全部あるいはどれかをやります。 ワキ方は、謡本は一曲の全部が載っているのであり、ワキの謡い方で全部を謡います。 夏目漱石が、一曲のワキのせりふだけを謡っていたのではなく、シテのせりふも全部ワキの謡い方で謡っていたのです。 今、地謡はシテ方の受け持ちですが、 江戸時代には、ワキ方の受け持ち(ワキ方のみで謡う、またシテ方とワキ方が一緒に謡う) でした。 囃子方は、すべての流儀のシテ方の演奏をしますから、五流すべての謡を把握しています。 安福春雄という大鼓の昭和の名人は、把握しているわかっているだけでなく、全曲を五流で謡いわけることができ、それもなかなかの腕前だったそうです。 素人は、謡の稽古だけでなく、笛でも小鼓でも、なにか囃子の稽古をすると謡の腕前も上がる=能の全体構造が良くわかって謡も進歩すると思うのですが、 玄人は、謡の腕前がその人の本業の囃子の腕前も左右すると言われます。 追加質問は以上でしたか。
- tarohkaja
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(1) 知る限り、学生に限らず素人の稽古でワキ方をやっている会はありません。 狂言、囃子については素人の稽古事 (習い事と言うべきではない) でおやりになる方はたくさんいるし、大学の狂言会もあります。 観世 ・ 宝生等の謡をやりつつ鼓 ・ 笛など囃子もやる大学のクラブもあります。 古くは、夏目漱石など、素人でワキ方の謡の稽古をした人もいるのです。 (シテ方の謡と共通なワキの流儀もある) 現在は、ワキ方には素人の面倒をみる余裕が無いせいだろうと思われますが、ワキ方ではどの流儀でもプロを養成する稽古だけで、素人相手の稽古はしていないようです。 (2) 能一番の謡は、なんと言いますか、ストーリーが全部ととのっているとでも言いましょうか、一番の謡の中にシテの謡 (せりふ) もワキの謡 (せりふ) も入っていますから、シテ方の稽古をする中でワキ方のせりふも謡います。 その時は、ワキ方の謡い方ではなく、ワキ方のせりふをシテ方の謡い方で謡うのです。 稽古の中でだけでなく、発表会でも、社会人の発表会ならば、素人がシテを演ずるわけですが、ワキ方はワキ方のプロに出演してもらうのが原則です。 しかし、学生の発表会ならば、プロのギャラは払えないとすれば、略式に学生のシテに学生のワキが、シテ方の謡い方でワキを務めるということもあります。 東京ほか、地元にプロのワキ方能楽師や囃子方能楽師、狂言方能楽師がいる歴史ある都市ならばいいのですが、新しい都市で地元にプロの能楽師がいないところでは、旅費宿泊費の負担も大きくなりますから、社会人の発表会でもプロのワキ方を招かず、素人がシテ方の謡い方でワキをつとめたり、素人稽古の笛や鼓で囃すこともあります。 ご質問は、「稽古」 の場合ですが、玄人の稽古でも、通常 ・ 日常の稽古ではシテ方のプロはシテ方だけで稽古しています。 公演が決まっていて、その演目の全出演者が舞台に集まるとき (申し合わせと言います) だけ、シテとワキと各役が合わせます。 素人の場合は、発表会でもプロのワキ方を招かないこともあり得ますが、 でもやはり、ワキ方はワキ方の謡い方に情趣があり、シテ謡いでワキをつとめるのは、どうもやはり雰囲気がへんなものです。 それを言うと、プロへのギャラとかの問題があり、市民が楽しむことができなくなりますから、ましてや学生には負担が大きすぎます。 稽古のご質問でしたが、稽古は玄人でも、いつもワキ方と合わせて稽古するわけでなく、問題は舞台にかける発表会のこととなります。
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回答ありがとうございます。 https://sites.google.com/site/wasedasimohou/ 調べてみたら、早稲田大学で下懸宝生流のお稽古をしている能楽部を発見しました。 ただ、このサークル曰く「全国で唯一のワキ方の能楽部」だそうです。 > 狂言、囃子については素人の稽古事 (習い事と言うべきではない) でおやりになる方はたくさんいるし 狂言や囃子については私も見たことがあります。 私の大学の能楽部では、シテ方のお稽古をしつつ、希望者は囃子のお稽古をつけてもらえるという制度になっていたようです。 > 古くは、夏目漱石など、素人でワキ方の謡の稽古をした人もいるのです。 漱石が能をやっていたという話は聞いたことがありますが、何とワキ方であったのですか! > ワキ方ではどの流儀でもプロを養成する稽古だけで、素人相手の稽古はしていないようです ワキ方のプロのインタビューで読んだことがありますが、シテ方のプロは1100名ほどいるのに対し、ワキ方のプロは80名ほどしかいないそうです。 その方は、ワキ方の若手が少ないことを嘆いておられました。 ワキ方の人数が少ないことと素人相手のお稽古をしないことの関係をどう捉えているのか、興味がありますね。 > シテ方の稽古をする中でワキ方のせりふも謡います これは存じませんでした。 逆に、ワキ方もシテ方の台詞を謡うのですか? > 素人がシテを演ずるわけですが、ワキ方はワキ方のプロに出演してもらうのが原則です 素人とプロが共演するのですか。 素人の発表会は、ワキの圧倒的な演技力に支えられているのですね。 > 素人稽古の笛や鼓で囃すこともあります これは、前述の「能楽部の学生が、シテ方のお稽古がてら、囃子のお稽古をする」奴ですよね。 役者と囃子は別のものなのに、なぜシテ方が囃子のお稽古をするのかいつも疑問に思っていたのですが、こういう事態を想定して稽古しているのでしょうか? > ワキ方はワキ方の謡い方に情趣があり うーん、実際に能をやっていない私としては、シテ方とワキ方の謡の違いはよく分かりませんね。 違いを楽しめるぐらいにまで能に精通したいものです。 > 稽古は玄人でも、いつもワキ方と合わせて稽古するわけでなく、問題は舞台にかける発表会のこととなります なるほど。