パソコンのソフトを利用する方法も今日では一般的になっていますが、それはそれとして、やはり、も自分の手で、ごく簡単なスケッチ的にでも、建物の室内や外観を描けることは、建築を志す方などはもちろんのこと、デザイン関係の方たちにも、ごく基礎的な技能としてまだまだ大切なことだと思います。
室内、あるいは外観、こうした光景を3D的に描くにはパースという技法を知らなくてはなりません。パースとはパースペクティヴ (Perspective=透視・透視図法)の日本的な略称ですが、考え方としては目で見る光景はその遥かかなたで一点に集中してしまうという概念のことです。
パースで建物を描くには、室内の描き方、外観の描き方、この2つに大きく別れますが、原理の上ではどちらも同じながら、実際の描き方には多少の違いがありますので、以降はもっとも簡単な室内の描き方だけに絞ってお答えします。
まず、室内を描く前に、その少し前の基礎練習をしてみましょう。まず、どこかの室内を思い浮かべてみてください。目の前に見える光景は、左右の壁、奥の壁、天井と床、そして窓やドア、家具や調度、こうしたもののはずです。
そして、これらすべてをさらによく観察してみて下さい、目に見えるのすべて、タテ方向の部分はすべて平行線に見えるはずです。また、視野を横切る方向のヨコ方向の線もまた、すべて平行に見えるはずです。実は、実際はそうでもないのですが、たかだか室内程度のタテヨコ寸法ではほとんど垂直と水平な平行線として見えるのです。
しかし、奥行き方向の線は平行には見えないはずです。壁と床、壁と天井、なげし、家具、窓の上下の辺、奥に向かう方向の線はすべて、手前から奥に向かって次第に狭まって見えるはずです。これがパースの一番肝心なところです。すべての奥行き方向の線は、さらに奥のはるか遠くですべて1点に集中するのです。このことが分かればあとは練習次第で、室内の透視図をわりに簡単に描けるようになるはずです。
では、簡単に室内を描いてみましょう。描くのは四畳半ほどの、床面が正方形な室内、まずは家具や窓などのない室内空間から始めましょう。いろいろな描き方がありますが、ここではまず突き当りの壁面を描いてください。四畳半ぐらいの部屋ですとヨコ幅は2,700mm、天井までの高さはおよそ2,300mmぐらいでしょうから、こうした比率の任意の縮小サイズで壁を描けば、その壁面の四角がその後の作図の基礎になります。
次に、奥の壁の任意の位置に点を決めて下さい、これはアイポイント(目線)と呼ばれ、すべてのパースの線が集中してしまい、モノの形が見えなくなってしまうことからバニッシュポイント(消去点)とも呼ばれます。点の位置は任意でいいのですが、普通は人の目の高さ、およそ1,600mmぐらいの感覚として決めればいいでしょう。
さていよいよ透視図の作図に入ります。このアイポイントと、奥の壁面が作る4つの角をそれぞれ結ぶ4本の線を引いてください。もうこれだけで室内の立体空間が見えてくるはずです。
実は、こうした図法でひとつ難しいことがあるのです。それは、図面上の奥行きの寸法出しです。正しくは、やはりそれなりの割り出し方があるのですが、ここでは長くなりますので省略します。それよりは、最初のうちは、観察によって得た感じで描いてもいいかと思います。事実、多くの場合、観察で覚えた距離感で描くこともまた多いものです。
この場合、ただひとつ言えることは、目のすぐ近くの床面は、見下ろす角度の関係から図面上幅が広く描かれるべきであり、、奥に行くにしたがって幅は次第に狭まってきます。こうした現象は、実際に和室の畳の見かけの幅の変化を観察するか、市松模様に敷き詰められたクッションフロアなどで目を養ってください。
とりあえず、ここでは目の感覚で、奥行きを決めて下さい。室内は四畳半サイズですから、奥行きも2,700mm、ただし、それを斜めから見た寸法として描かれなくてはなりません。こうした感覚がつかみ難かったら正方形に切った紙片を正面や斜めヨコから観察すれば、奥行き方向の2,700mmは案外短く見えることが理解できるはずです。
そして大切なこと、案外短く見える奥行き方向の2,700mm、それは最初に引いた4本の線の上に決められるものです。4本の線のどれが1本に点を打つ、それが奥の壁から最も手前の、四畳半なら本来手前の壁があるはずの位置になります。
その、線上の点から、垂直に、あるいは水平にと、4本の線と交差する線を描いてください。そして4つの交点を結んだ四角、それが一番手前の壁の位置になります。これで四角な室内空間が描けました。
もし、照明のペンダントが室内の中央にぶら下がっているように描きたいなら、台形に描かれたはずの天井の4つの角を互いに結ぶ対角線を引けば、その交点がまさしくこの部屋の中央になります。
窓、たとえば右側の壁の奥から手前まで全部が窓という図にしたいなら、まず最初に、一番奥の壁面の右側の垂直線(右の壁と奥の壁が作る角)の部分で窓の高さを決めます。あとは同じ操作、アイポイントと右側の垂直線上に決めた窓の位置の点、これを結ぶ線を伸ばせば、右側の壁に窓の位置が描かれるはずです。あとはスケッチの能力次第、サッシ、締り金具、ガラスの質感、そうしたものを細かく描いて行きます。
家具も同じことです。テーブルの高さや左右の位置、こうしたものはすべて奥の壁面で、比率によって高さや位置を決め、すべてアイポイントと結ぶ線で表します。椅子もサイドボードも、壁の額縁もみんな同様の操作で(奥行き寸法以外の…)位置が求められます。
奥行き方向を決める手法は省略すると書きましたが、たとえば和室の四畳半のように、あらかじめ床面を左右奥行きともに3等分した薄い線を引いておけば、家具の大よその奥行き位置や長さなども描きやすいでしょう。
こうしてすべての位置関係が決まりました。あとはスケッチの技法で、すべてを生き生きと描き出すだけです。照明器具のデザイン、家具のデザインや素材の質感、細かな装飾品、描きこめば描きこむほどリアリティが増していきます。ですが、けっして手を抜かないように…。たとえサイドボードの上に置かれた小さな置時計ひとつでも、その奥行きはアイポイントに向かって伸びている、そのことを忘れないように。
あとは練習と経験です。なにも専門の書籍など見るほどのことでもありません。とにかく根気よく、アイポイント(バニッシュポイント)を結ぶ線で描いてください。アイポイントの位置を上下左右に動かしてみるといろいろ変わった角度からのビューが得られます。
余談ですが、建物の外観を描く際にもアイポイント(バニッシュポイント)が使われます。ただし、外観ともなると比較的大きな構造体ですから、ほとんどの場合アイポイントは同じ高さで2つ決められます。今度外出された際には、2つのポイント…、これがどういう意味なのか、建物をよく観察してみてください(正しくは、建物の外観も本当は左右と上下、3D的に3つのバニッシュポイントを持つのですが、通常は高さ方向はすべて平行線で描きますから、2つのポイントだけでいいのです)。
今回はここまでにさせていただきます。
お礼
有り難う御座いました。