クルマの設計屋です。耐久レース用のレーシングカーやフォーミュラカーから、バイク、乗用車、RV、トラック、更には鉄道に至るまで、およそ車輪を持ち陸上を走る乗物の尽くのサスペンションの研究・設計に関与していた事があります。
1.クルマに相当詳しいと称される方でも、実際には結構怪しい?知識の方々が多いので・・・・まず最初に明確にさせてください。
サスペンション形式と性能とは、必ずしも関係はありません。『この形式だとこういう傾向にある』とは言えますが、例えば『マクファーソン・ストラットよりダブル・ウィッシュボーンの方が優れている』という様な話は、市販車レベルではありません。
2.よいサスペンションかどうかは、設計者が意図した特性(上下動に伴うアライメント変化、ロールセンタ位置やその移動軌跡、制動や旋回に伴う荷重移動量など)が実現出来ているかどうかだけです。逆に言いますと、設計者の意図が忠実に再現出来るのであれば、サス形式は何でもよい事になります。
勿論、マヌケが設計したサスペンションは最初に意図した特性がマヌケなので、どんな形式でもマヌケなサスにしかなりません。(そしてその様なサスは、現在でも散見されます。形式にこだわるとマヌケ設計品をつかまされます。)
3.それでは何故様々な形式が存在するのか?ですが、純粋な性能(この場合は、専ら旋回性能や乗心地性能を指します)以外の理由が挙げられます。
即ち、低コスト(部品点数が少ない、各部品が作り易いだけでなく、工場での組付け時間の少なさも重要です)、エンジンルームやトランクルームを広く取れる、衝突時に衝突エネルギを吸収する為にボディが変形するのを邪魔しない、強度・耐久性上有利、見栄え(スポーツカーでは重要な要素です)などが様々なサス形式を採用する理由となっているワケです。決して、純粋な性能の優劣をつける為にサス形式に差別化を図っているワケではありません。
4.勿論、各サス形式には傾向としてのメリット/デメリットは存在しますが、それを解説するのは・・・・折角御質問頂いたところで誠に残念ですが、この様な場では書き切れません。ユーザ向けの平易な解説としましても、全てのサス形式を網羅する為には本が1冊出来るほどの量になるでしょう。
5.見栄えが気にならないのであれば、サスの形式などどぅでもよい話です。
ユーザーの方々はそれぞれサスに対して重視したい性能をお持ちの事と思いますが、実際にクルマを御覧になってリヤシートや荷室の広さ等をチェックし、試乗してみて御自身が納得される性能が得られているならば、形式が何であろうとそれはアナタにとって優れたサスペンション、と言う事になります。
お礼
詳しい内容で答えをだしてもらって 大変感謝です。 車が作られる過程での予算もありますよね・・・。 バブル期のものと今のものと、やっぱどっかで予算を削られ・・・。 一番気に入ったのは、最後に書かれた文章で、専門家さんなのに優しい気持ちが伝わってきました。