元レーシングカーデザイナです。と言ってもF1はやったことがありませんが・・・走らせていたのはルマン24hrsなどに出る耐久マシン(自分がやっていた頃はグループC)、F3000(フォーミュラ・ニッポンの前身)など、なので一応世界選手権クラスのクルマを走らせていた事にはなります。
>F1のマシンをいじるのは、とても楽しそうです。
レースをやるのはゼンゼン楽しくありません、どころか苦しいだけでしたが・・・でもスキだったから出来たんでしょうねぇ。
なんて話はおいといて。
>F1メカニックと
F1エンジニア、
どっちがいいか質問します。
レーシングカーを走らせる、というか作る仕事は、大きく分けて3種類あります。
1.デザイナ
マシンを設計する仕事です。自分がやっていたから言うワケではありませんが、レーシングビジネスに於いて最もクリエイティブな仕事だと思います。しかし、最も徹夜と休出が続く仕事でもあります。
この仕事をするには、機械工学、自動車工学分野の知識はMUSTです。勿論機械設計技術を身につけていなければ話になりませんし、また電装、材料、各種加工機などの知識も必要です。
2.エンジニア
広義にはデザイナもコレに含まれますが、多くの場合『開発エンジニア』を指します。
仕事は要するに『実験担当』です。風洞実験や新素材の強度試験をして結果をデザイナにフィードバックしたり、組み上がったクルマをテストして問題点を抽出する仕事です。
この仕事も機械工学や自動車工学の知識が必要ですが、デザイナと違うのは、設計技術や加工技術よりも実験・計測技術が必要な点です。その為には各種計測器の取扱やデータの解析手法にも長けていなければなりません。
3.メカニック
クルマを組立てたり故障を直したりする仕事。レース中にタイヤを交換したりガソリンを入れたりするピットクルーもメカニックに含まれます。
これはいわゆる肉体労働であり、デザイナやエンジニアの様な学究的知識より職人技が要求されます。
>どちらが儲かりますか?
これは比べるべくもありません。
デザイナとエンジニアは工学系大学卒か、或いは大卒でなくてもそのレベルの学問的知識を身につけている事が最低条件で、一方メカニックは高卒~専門卒が殆どです。
収入は、一般企業の大卒vs高卒程度の差がつきます。
>どちらが難しいですか?
上述した様に、デザイナやエンジニアになるには工学を勉強しなければなりません。就職が難しい、という事に関してはどちらも差は無いでしょう。
デザイナがエンジニアを兼任しているところもありますし(日本のレース専業会社はこの手が多いです)、エンジニアが開発部門のチーフとなって、その下に設計部隊を配しているチームもあります。
メカニックは、『職人』と上記した通り、ヤル気とチャンスがあれば誰でもなれますが、しかし最初は厳しい修行が待っています。
>年収どのくらいですか?
日本の大手自動車メーカ系のレース部門であれば、収入は量産開発部門の社員と大差ありません。要するに大手企業の給料同等というワケで、サラリーマンなので当然です。
一方、欧州の『フリーのデザイナやエンジニア』などは、F1クラスだと億単位の年棒になります。
トヨタの元テクニカルダイレクタ(技術監督?)にしてF1史上最高額エンジニアとウワサされるマイク・ガスコインは、‘06年トヨタとの契約時の年棒は800万ドル(8億円!)、これはホンダのロス・ブラウン、元フェラーリのエイドリアン・ニューウェイやロリー・バーンより高額だったと言われています。
一方メカニックの年棒は・・・かつてのニキ・ラウダに対するエルマノ・クォーギーの様なスーパーメカニックでさえ、デザイナ/エンジニア並みの収入にはならないでしょう。多くの場合メカニックの収入は『フツーの給料』に過ぎません。
>その他
上記の話には日本人が出て来てませんね?で、既にお気づきと思いますが・・・F1に於いて、日本人でマシンのエンジニアリングに関する全権を握るデザイナ/エンジニアは、恐らくまだいないでしょう。トヨタもホンダも、『既にF1で豊富な経験を持つスーパーデザイナ/エンジニア』達にマル投げです。(そういう連中を、大企業型管理組織で日本の管理職がコントロールしようとするから、ガスコインなどはケンカ別れしてしまうワケです。)
現在日本でF1をやっているのはトヨタ一社のみですが、新卒でトヨタに入っても、F1部門に配属されるかどうかは全く判りません。(他のレース屋で働いていた『経験者』を中途採用で集めたスタッフが結構いる様です。かつて自分は・・・レーシングビジネスがもうイヤでイヤで転職した時、専門はサスペンション設計だったので、某自動車メーカに量産車部門の設計希望で履歴書を送ったら・・・何故か面接で研究所に呼ばれ、『すぐ来てくれ、明日から来てくれ』『入社したらまずは北米のレースに行ってもらって・・・』と・・・速攻で辞退したのは言うまでもありません。大メーカでも、レース部門はこうやってヒトを集めているんだな~、という例です。)
つまり、
>最近は、モータースポーツの専門学校とかもでき、
就職しやすくなっています。
自動車メーカのレース部門には、新卒に関しては全く入り易くなっていません。これは今でも同じです。
もしどうしてもレースで食って行きたいなら・・・日本のレース界はメーカではなくレース専業会社(その実態は町工場)が支えています。専門卒でも大学卒でもいいですが、まずはそういう中小に入り、経験を積んでもっと大手に転職する方が確実でしょう。
そして、レース屋でちょっとした収入を得たいなら・・・必ず工学系大学を出て、デザイナを目指しましょう。(中小のレース屋では、実験担当エンジニアは置いていません。)
さて非常に長くなりましたが、最後に一つ。
昨年学会で(自動車工学分野でも、ちゃんと学会があります)、英国の大変有名なレーシングカー・エンジニア(既にレース界からは引退されていますが、F1での最後の仕事はアロンソ用のルノーだったとか)にお会いする機会があり、F1マシンの最新技術トレンドや彼の地でのレーシングビジネスに関して色々と伺いました。
英国では、なんとレース業界は3500億円規模のビジネスだそうな。食うや食わずのタダ残業・タダ休出でどうにか成り立っている日本のレース業界から見るとうらやましいの一言ですが、つまり英国に渡ればレースで十分食っていけるし、またそれだけ巨大な市場という事は、労働力の受け口も広く用意されているという事です。
これからレースで食っていこう(更には、レースで儲けよう)とお考えなら、ウソでも冗談でもシャレでもなく、英国に渡る事を強力にお勧めします。(自分がレースをやっていた25年前にそういう事情が判っていたら・・・きっと英国に渡ったでしょうねぇ・・・)
お礼
本当にありがとうございます!!!!! なんとお礼したらいいか… とても詳しく、丁寧に答えて下さり、 心から感謝しております!! 元々そういう仕事に就いていた ということで、とても頼りになります! これからも頑張ります