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誰もいない国
三年前の夏、僕はニューヨークのラガーディア空港からワシントンへの定期便に乗り込んだ。小さな機体、双発のエンジン。ゆらゆら陽炎の立つアスファルトの上を、てくてく駐機場まで歩いてきたからか、乗客たちは誰もひとこともしゃべらなかった。おもむろにパイロットが振り返り、安全確認らしきことを早口でまくし立てたあと、コークが冷蔵庫に入っていると付け加えた。 乗務員はいない。客席前方に、小さな冷蔵庫が置かれていた。 けれど、けっきょく誰も飲み物を手にしないまま、飛行機は滑走路を飛び立った。飛行機はぐんぐん高度をあげて、窓外に見える景色はしだいに小さくなる。やがて車が、つぎに船が動きを止めて、まるで紙芝居に描かれた一枚の風景画のようになったころ、甲高いエンジンの音とやたらと揺れる機体は、いきなり真っ白な雲に飛び込んだ。 そこで初めて気付いたのだが、左足もとの床に小さな穴が空いていた。その穴から、白い雲が覗けてしまうのだった。そればかりか、穴から薄っすらとした雲が入り込んでくる気がした。 さて、ここからが質問です。僕は、いったいどうなるんでしょうか?
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雲は大気中の細かい塵に水滴がくっついたものの集まりにすぎないだろう。けれども僕たち人間も、この僕も、水と地上のありふれたもので構成されているにすぎない。ほんらい地上にあるべきものと大気中を漂うものとが出会う特権は、鳥やペガサスに任せておけばよかったのである。イカロスは失墜するものだ。 ふとそんな考えが僕をよぎった。するとそのさらさらとして見えながら、ぬれる、くっつくという現象をひきおこす集合体がある種の精霊であるかのように思いなされ、背筋をふるって、気がついたときにはその小さな穴に左足を載せていたのである。ブレーキかアクセルなのか。いや、これはブレーキだろう。なにより僕は雲の侵入を防ごうとしたのだから。 雲は遠くにあるときボードレールの薔薇色の詩句であったが、近くにあると意外に醜かった。いま、やわらかく執拗な力強さで足の裏がわを押してくる。ほとんど理不尽なまでに。僕は十字形に痛まねばならないときが来たのであろうか。 首筋を巡らし、まわりの乗客たちを見渡した。おにぎりを美味しそうに食べているイギリスの紳士。漫画に笑いこけているフランクフルトの商人。パリジェンヌはさきほどからうたたね。その隣でイタリアの青年は哲学的考察にふけっているように見えた。だれ一人として、この上空九千フィートの大気の希薄さと風圧に、いきなり耐ええる人物とていなかった。 また、よく耐えたとして、この箱船の機体が無事である保証はまったくない。 なんだって人間は地上のものを蒼穹に持ちこまなければならなかったのか。僕はいつだって女の子には甘かった。薔薇色の詩句だと思っていた。もしくは薔薇色に染められた言葉が織り出されてくる唇だと。あれは墓窖にすぎなかったのか。死は中空に穿たれた一点の小竅であり、そこから雨がもたらされ、地上のくぼみのそこここに水たまりをつくってうつろな瞼窩を拓かせるというのだろうか。 いや、そうではない。そうではないのだ。慈悲は無慈悲と思えるほどに寛大なのだ。そしてそれはいたるところに存在しているのにちがいない。ちょうど僕の左の足裏が当たっている場所にある穴がそうであるように。僕は塞いでいる脚の力を徐々にゆるめていった。 そんな僕のふるまいを、僕のななめうしろの座席から僕はじっと見つめていた。 ※ 一つの短編を書くには、大変なエネルギーが必要のようです。ここはあらすじ程度でご勘弁下さい。 また、小説を書いた経験もないので、変に理屈っぽく、うがった文になっています。小説らしくない。 死の予感と「三年前の夏」の折りあいもつける必要がありそうですね。ここはどうにでもなりますが。 頭のスポーツ、戯れ言ということで、おてやわらかにご笑覧いただければ幸いです。 ところで、 ご質問文を一読したときの印象が、池澤夏樹に似ているな、ということでした。 失礼ながら質問者さんの回答を拝見したところ、氏をお好きなようなのでわが意を得ました。 氏の文章はしばしば端正と評され、短い文をつなげてゆくもの。 文章・テーマともに現代で抜けた書き手ですね♪
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- 日比野 暉彦(@bragelonne)
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ri_rong さん こんばんは。 ★ さて、ここからが質問です。僕は、いったいどうなるんでしょうか? ☆ どうなるのかは分かりません。 まづ思い浮かんだのは 雀が墜落するかどうかの次の記事です。 ▲ (マタイによる福音書10:29) ~~~~~~~~~~~~~~ 二羽の雀が一アサリオンで売られているではないか。だが、その一羽さえ、あなたがたの父のお許しがなければ、地に落ちることはない。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ☆ これは単純な連想のようです。次は ひとは最悪を思いに抱くとのことわざどおりのことかも知れません。ただし 過程を経ての結果として思い浮かんだものではありません。そういう反応を持ったのは実際ですから そのままを投稿します。 谷間に眠る者 (Le Dormeur du Val――Arthur Rimbaud ) 緑なす里の野にさわやかに水流れ 狂乱の銀の衣(きぬ)草々に飛び散らす いや高き山の端に綺羅やかに日は昇り 光線の泡の生(む)すこの狭き谷合いに 年若き兵士ひとり髪乱し口を開け 鮮やかな芥子菜(からしな)の群青に頂漬け 眠りゆく。陽光の雨注ぐさみどりの 床に臥し蒼ざめて草のなか雲ながめ 足元に菖蒲(あやめ)咲き眠りゆく。口元に 病める子の微笑みを微笑んで眠りゆく。 天地(あめつち)よ暖かく揺らせ彼凍えるを。 芳(かぐわ)しき花の香も鼻元に届き得ず 陽を浴びて眠りゆく。片腕は安らかな 胸の上。右脇にくれないの傷跡(あと)ふたつ。 * 残念ながらこれだけです。 * なんで鹿児島なんだろう?
- littlekiss
- ベストアンサー率14% (98/698)
こんにちは、ri_rongさん。 ●左足もとの床に小さな穴が空いていた。その穴から、白い雲が覗けてしまうのだった。そればかりか、穴から薄っすらとした雲が入り込んでくる気がした。 それは、たぶん閉塞感満ち溢れる機内の沈黙にどこかいたたまれなさを覚えたから、僕が。 頭を下げ空いた小さな穴をのぞき見る僕。 誰かに助けを求めるように空いた小さな穴に “ どうぞこのまま僕を連れていって ”と そっと囁く。 “ カチャッ ” いつのまにか手はシートベルトのロックをゆっくりと解いていた。 空いた小さな穴に身を近づけていくほどに ゾーゴォゴゴゴと、とてつもない音が音量を増す。 揺れる機体。 明りが落ちた暗闇の中、ハッ!と、我に返る僕。 気がつけば座席を離れ、僕の手は客席前方の冷蔵庫の取っ手を強く握りしめていた。 ためらうことなく扉を開けた僕。 次の瞬間、まばゆい光とクラッカーを鳴らし飛び出る紙テープのようなコークのシャワーを身に浴びた、僕。 ずぶ濡れになった前髪、かきあげ、顔をあげ、辺りを見渡せば…そこは鹿児島。 (^_-)-☆ ルパン ルパ~♪ン~♪ 「ラヴ・スコール」 【二酸化炭素の補給方法】 http://hydro.shop-pro.jp/?mode=f9
お礼
いよいよ、ですね。また、あの季節が巡ってくる。 日増しに力を増し、一段と濃く、そして一段とくっきりした輪郭を手に入れて、影はまた踊り始める。 リズムと波と白い雲、どこまでも真っ青な海、どこまでも流れてゆく星、そして巡ってきた時間。楽しい、音楽の時間ですね。ハリキッて行きますか?
- zyxxyz
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答え…目覚まし時計がなって、夢から覚めます。
お礼
夢がまことか、まことが夢か。 ――だれも 一人では 生まれることはできない 父がいて 母がいて はじめて赤ん坊になれる 命は授かりもの 父からの 母からの 父と母を巡りあわせた 不思議な運命からの――その無数の網の目でつながった数えきれない物語と 過去からの血とがいま たったひとりのあなたに流れこむ
お礼
ああ、泣かせる回答ですねぇ。それによく、書けています。 池澤夏樹――しかし、よくご存じですね。まずは、お礼をお返しします。そして、じっくり読ませていただきます。補足をするかもしれません。あるいは納得したら、この質問は閉じます。 ともかく、まずお礼です。
補足
あとに続く回答が、どうやら不思議な道筋を辿りつつあります。 やはり、あなたの回答がベストアンサーでしょう。波の音を聞きつつ、ここで質問を閉じます。