「いい声」とは話し声でしょうか? それとも歌声?
お友達のおっしゃる「お腹から出る声」とはおそらく腹式呼吸のことでしょうが、声は決してお腹から出るものではなく、あくまでも喉の奥にある声帯の振動です。
声楽家に多くの友人がいますが、彼らの話し声は全員が美声とは思えません。ごく普通の人たちに混じって話しているのを聞いたら、誰が声楽家なのかは分からないほどです。逆にアナウンサーや声優が歌っても例外はありますが、決してうまい、美しい声とは言えません。
つまり声を出す時の方法が会話と声楽ではまるっきり違うんです。プロの声優でもおそらく腹式呼吸はしていないでしょうし、声楽家でも通常の会話では腹式呼吸をしていないはず。また、完璧な腹式呼吸を会得しても、誰もが美声になると言う訳でもありません。
こうなると残った美声の条件は声の質と適度な強弱の使い分け、話し声なら音に雑音が入らないこと。声にバリバリという雑音の入る人は声帯に問題があるのかもしれません。それに声帯から発せられた音が体のどこで共鳴しているか、でしょうかね。
共鳴って大事でしてね、どなたも覚えがあるでしょうが自分の声を録音で聞くと、「あれ、これが自分の声なの?」と驚くものです。声帯が振動して発せられた音は、誰でも一番近い頭蓋骨で共鳴するのです。同時に耳の奥にある鼓膜にも骨を通して伝わります。これが自分の認識する声です。
ところが自分以外の人には、声帯から発せられた音が主に聞こえます。録音された音がこれに当たります。つまりほとんど共鳴のない音です。20世紀最高のテノールと言われたマリオ・デル・モナコが初めて自分の録音を聞いた時に、「なんだ、これは! ただの叫び声じゃないか!」と愕然としたことは有名な話です。彼は十分美しい声だったのですが、自分の頭蓋骨、耳骨を通じて聞こえていた声とは大分違っていたのですね。
声そのものの質、安定した強さで声帯に息を送り込める腹式呼吸、高さを保てる声帯付近の筋肉、そして体全体をいかに共鳴させて音を出せるか、これが「いい声」、「よく通る声」のポイントでしょうね。
専門家ではありませんが、ご参考までに。