>>江戸時代以前では、牛肉は仏教の戒律により食する習慣がなかったと聞いています。
まずこの認識が誤りです。日本人はシカ・イノシシ・イヌ・キジなどの食肉文化はありました。ただし肉食は滋養を付けるための「薬食い」、現在でいう珍味に近い感覚だったことや、農耕に従事する牛馬を食べることに嫌悪感があったことなど、さらには明治以降に欧米は肉食文化だと誤解したことで「日本人は肉を食べていなかった」と誤った歴史認識が広まったまでです(仏教的な不殺生思想で肉食を嫌悪する感情があったこととは事実です)。
大乗仏教では不殺生の観点から一律に肉食を戒めました。もともと、初期仏教では他者から施されたものであれば、肉食は差し障りありませんでした(ただし積極的に肉食を薦めているわけでもありません)。特に不浄肉といい「自分のために殺されるのを見た肉」、「自分のために殺されたということを信ずべき人から聞いた肉」、「自分のために殺された疑いのある肉」は禁じられました。現在も東南アジアの修行僧は不浄肉以外であれば食べます。
また人・蛇・象・馬・驢・狗・獅子・猪・狐・猿の肉も不浄肉と説く経典があります。
おそらくは時代が経つにつれ浄肉・不浄肉の境界をどのように判断すべきかという現実的問題や、慈悲の心の表れという精神的観点から、大乗では肉食全般を戒めるようになったかもしれません。また、「食べてもよい」ということと「食べることに差し障りがない」は同じではないという点は留意して下さい。
魚・鳥・獣の肉以上に戒められるのは、五辛(ごしん)あるいは五薫(ごくん)と呼ばれる強い刺激や臭いのある野菜類です。諸説ありますが、私はニンニク・ニラ・ネギ・ラッキョウ・ハジカミ(ショウガ)の五種と教わりました。寺院の門前に「不許薫酒入山門」「禁酒肉五辛入境内」などと書かれた石碑が立っていることがありますが、寺院に持ち込んではいけないというものです。
五辛は口臭で他の行者の修行を妨げ、刺激によって煩悩が生まれて瞑想の妨げとなり、そのにおいを悪鬼が喜ぶなどととして戒められると教わりました。
お礼
とてもよくわかりました。 詳しいご説明、ありがとうございました。