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臭いと記憶をつかさどる器官

 においと記憶は密接な関係があります。たとえば突然、檜のにおいを嗅いだりすると、葬式の記憶が鮮やかに甦って、とても厳粛な気持ちになります。ところで、においを感じる脳内のある器官を外科的に刺激すると、やはり想い出が鮮やかに甦ると昔、保健体育の時間で習いました。  その器官名をご存知のかた、教えてください。検索してもなかなかわかりません。

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  • ruehas
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回答No.1

こんにちは。 「視覚」や「聴覚」あるいは「臭覚」といった感覚器官から取り込まれて記憶されたものを「感覚記憶」といいます。 身体の各感覚器官からの感覚情報は「大脳皮質の感覚野」に入力されます。ここで知覚処理された情報はそれぞれ近隣の「感覚連合野」で認知作業が行われ、記憶の可能な状態になります。 この入力処理経路は分離しており、 「視覚入力―視覚野―視覚連合野―視覚記憶」 「聴覚入力―聴覚野―聴覚連合野―聴覚記憶」 「嗅覚入力―嗅覚野―嗅覚連合野―嗅覚記憶」 といったように、それぞれに記憶される場所が異なります。そして、一度記憶された感覚情報が逆に感覚連合野に呼び出されるのが「記憶の想起」であります。 大脳皮質の感覚野を電極で刺激するとそれぞれの記憶が想起される、この研究を行なったのは「ワイルダー・ペンフィールド」というお医者さんです。 視覚野を刺激しますと視覚情報が想起され、聴覚野を刺激しますと記憶に残っていた音声が聞こえます。これは1950年頃までの画期的な研究でありまして、質問者さんが授業で習ったのは恐らくこのことではないかと思います。そして、臭覚情報を扱う「臭覚野」といいますのは「側頭葉28野」に当たり、ここを刺激すると「嗅覚記憶が蘇る」ということになるはずです。 但し、「映像」や「音声」が蘇ったというのはたいへん有名な話なのですが、ペンフィールドの実験では「臭い」というのはあまり出てきません。ですから、この話は少々ややこしいので説明を後回しにしますが、臭覚野を刺激すると「記憶の想起」や「情緒の変化」が起こるというのはもう少し新しい研究結果を扱った授業であった可能性もあります。 最初に申し上げました通り、感覚情報といいますのは種類によって扱われる場所がはっきりと分かれています。では、「檜の臭い:嗅覚情報」を嗅いで「お葬式の情景:視覚記憶」が蘇るというのは、これらは別々に保管されてはいるのですが、我々の脳内では「同じ対象から同時入力された情報」といいますのは「連想記憶の関係」が結ばれているからです。そして、厳粛な気持ちになる「情緒の変化」といいますのは、一連の記憶想起に基づき、大脳辺縁系に「情動反応」が発生するからです。 さて、説明の都合上、視覚も聴覚も一緒にしてしまいましたが、質問者さんが授業でそう教わったということでありますならば、嗅覚といいますのは他の感覚器官に比べ、「記憶」や「情動」などとの関係が特に複雑・密接であるというのは専ら近年の研究で示唆されています。これは、我々動物にとって嗅覚といいますのが最も古い基本的な感覚機能であるからです。 まず、嗅覚におきましては他の感覚器官に比べて研究が少々遅れておりまして、はっきりとしたことはあまり分かっていません。 通常、感覚記憶の形成といいますのは、 「感覚器官―視床―感覚野―感覚連合野」 という経路で行なわれます。 ところが、嗅覚だけは他の感覚器官とは異なり、 「嗅覚器―臭球―海馬―嗅覚野―側頭葉連合野」 といた特別な経路を辿ります。 「海馬」というのは論理記憶を司る連合機能を持つ器官であります。このため、嗅覚は記憶との関係が特に密接なのではないかと考えられますが、まだこの当たりは解明されていません。ですが、臭覚野といいますのは感覚情報の知覚器官でありますから、そこに入力される前に記憶機能を持つ海馬を通過するというだけでも至って特殊なことです。更に、「臭球」といいますのは嗅感覚を受け取るだけではなく、情報処理と学習の機能を持っており、臭覚情報はここから大脳辺縁系(扁桃体)や視床下部などに分岐しています。 「大脳辺縁系」といいますのは脳内では「情動反応」を司る新皮質でありますから、臭覚というのは我々の「心の動き」に直接働き掛ける関係深い感覚と言うことができます。また、「視床下部」といいますのは全身の自律神経系を束ねる器官でありまして、嗅覚は身体の生理状態にも深く関係していることになります。 もちろん、他の感覚情報も大脳辺縁系や視床下部との間接的な連絡路を繋いでいますが、専用回路を持っているのは嗅覚だけです。 このため、「檜の臭い」を嗅いで、 「お葬式の情景:連想想起」 「新たか厳粛:情動反応・生理反応」 といったことになるのではないでしょうか。但し、誰でも「檜の臭い」というわけではないですよね。それぞれの因果関係といいますのは質問者さんの個人体験が反映したものです。 「アロマ・セラピー」なんてものが古い歴史を持ち、我々の精神や生理状態に様々な効果があるというのはこのためだと思います。そして、この機能は我々動物が比較的古い時代に発達させたものであり、魚類などの下等動物は大脳皮質など持ってはいませんが、臭いだけを頼りに自分の生まれた川に帰って来るという、たいへん正確な学習行動を行います。

keirimas
質問者

お礼

 ご丁寧な回答をいただきありがとうございます。脳を刺激することで映像が見えたり、音声が聞こえたりするというのは面白い話ですね。私が習った、というのは30年前の中学の保健体育の副教材に書いてあったことのことですが、脳の大まかな部位名だったか側頭葉28屋だったかは忘れました。  檜のにおいのみならず、レコードジャケットのにおい、稲穂のにおい、土のにおい、雪のにおい、石油のにおい、絵の具のにお・・・・。挙げていったら限がありませんが、懐かしさを強く感じるにおいがあることは幸せと思っています。ご回答はやや専門的で素人の私にはわかりにくいところもありますが、おおいに参考にさせていただきます。ありがとうございました。

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