【サンフランシスコ条約第11条】
Japan accepts the judgments of the International Military Tribunal for the Far East and of other Allied War Crimes Courts both within and outside Japan, and will carry out the sentences imposed thereby upon Japanese nationals imprisoned in Japan. The power to grant clemency, to reduce sentences and to parole with respect to such prisoners may not be exercised except on the decision of the Government or Governments which imposed the sentence in each instance, and on the recommendation of Japan. In the case of persons sentenced by the International Military Tribunal for the Far East, such power may not be exercised except on the decision of a majority of the Governments represented on the Tribunal, and on the recommendation of Japan.
公定訳(日本政府による公式の訳)
日本国は、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国犯罪法廷の裁判を受諾し、且つ、日本国で拘禁されている日本国民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする。これらの拘禁されている者を赦免し、減刑し、及び仮出獄させる権限は、各事件について刑を課した一又は二以上の政府の決定及び日本国の勧告に基く場合の外、行使することができない。この権限は、裁判所に代表者を出した政府の過半数の決定及び日本国の勧告に基く場合の外、行使することができない。(引用終わり)
【日本政府の公式見解】
外務省 歴史問題Q&A
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/qa/09.html
この裁判については様々な議論があることは承知していますが、我が国は、サンフランシスコ平和条約第11条により、極東国際軍事裁判所の裁判を受諾しており、国と国との関係において、この裁判について異議を述べる立場にはないと考えています。(引用終わり)
「国会会議録検索システム」から引用
http://kokkai.ndl.go.jp/
2005年6月2日、参院外交防衛委員会。自民党・山谷えり子議員の質問に対する林景一・外務省国際法局長の政府答弁(国際法局については、次のURLを参照されたい)。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/honsho/sosiki/joyaku.html
(引用初め)
山谷えり子君
(中略)
日本は東京裁判の判決を受け入れましたが、英文の「ジャパン アクセプツ ザ ジャッジメンツ」の、法律用語ではこれは判決の意味で、フランス語、スペイン語においても、この単語の意味、言語学的には裁判ではなく判決と読めるそうでございます。
日本は裁判の判決を受け入れていますが、日本側共同謀議説などの判決理由、東京裁判史観を正当なものとして受け入れたのか、また、罪刑法定主義を無視し、今日でも概念が国際的に決まらない平和に対する罪で裁かれたことを受け入れたのか、国民の間に混乱があると思いますが、分かりやすく御説明ください。
政府参考人(林景一君)
お答えいたします。
先生も今御指摘のとおり、サンフランシスコ平和条約第十一条によりまして、我が国は極東国際軍事裁判所その他各国で行われました軍事裁判につきまして、そのジャッジメントを受諾しておるわけでございます。
このジャッジメントの訳語につきまして、裁判というのが適当ではないんではないかというような御指摘かとも思いますけれども、これは裁判という訳語が正文に準ずるものとして締約国の間で承認されておりますので、これはそういうものとして受け止めるしかないかと思います。
ただ、重要なことはそのジャッジメントというものの中身でございまして、これは実際、裁判の結論におきまして、ウェッブ裁判長の方からこのジャッジメントを読み上げる、このジャッジ、正にそのジャッジメントを受け入れたということでございますけれども、そのジャッジメントの内容となる文書、これは、従来から申し上げておりますとおり、裁判所の設立、あるいは審理、あるいはその根拠、管轄権の問題、あるいはその様々なこの訴因のもとになります事実認識、それから起訴状の訴因についての認定、それから判定、いわゆるバーディクトと英語で言いますけれども、あるいはその刑の宣告でありますセンテンス、そのすべてが含まれているというふうに考えております。
したがって、私どもといたしましては、我が国は、この受諾ということによりまして、その個々の事実認識等につきまして積極的にこれを肯定、あるいは積極的に評価するという立場に立つかどうかということは別にいたしまして、少なくともこの裁判について不法、不当なものとして異議を述べる立場にはないというのが従来から一貫して申し上げていることでございます。(引用終わり)
【解説】
ここまでの引用で、答はほぼ出ていると思いますが、拙い解説を付け加えてみます。
judgment という言葉は、法律用語としては普通「判決」と訳します。「最大最高の英語辞典」と言われる OED(オックスフォード英語辞典)を引いてみましたが、judgment が「裁判」の意味を持つのは、古語などの場合のようです。
ところが、東京裁判の判決には仕掛けがありました。英文で1212ページに及ぶ判決(多数意見判決)の中に、次の内容が含まれていたのです。
○裁判所の設立の経緯に遡って記述。
○裁判が法に基いて正当に成立していると主張。
○ニュルンベルク裁判所条例も援用することを宣言(「ニュルンベルク裁判所の意見であって、本件に関連のあるものには、無条件で賛意を表する」)。
○弁護側が主張した「東京裁判設置の無権限」「裁判所条例の事後法的性格」などを退ける。
つまり、判決の中に、この裁判が正当に合法的に成立する根拠が書いてありました。ちなみに、通常の裁判の判決には、そんなことはわざわざ書いてありません。
したがって、「東京裁判の判決を受諾する」ことは、「東京裁判そのものが正当に成立していると認める」ことです。
【異説が誤りであることについて】
ご質問文では、「裁判は受諾した、しかし判決は受諾していない」となっていますが、「判決は受諾した、しかし裁判は受諾していない」と論じる人たちは存在するようです。この異説についてお答えしましょう。
彼らの帰結(結論)は、次のようなものです。「日本は、刑の執行を引き継ぐために、判決を受諾したのである。それに必要な部分以外は、受諾していない。その後、刑の執行はすべて終了したから、今や日本はこの裁判を認めない」。
しかし、この異説は誤りです。その理由は次の通りです。
(1) 刑の執行を引き継ぐためだけなら、「刑の宣告」(sentence。主文ともいう)だけでよい。しかし、条約11条によって受諾したのは sentence ではなく、judgments である。そして、東京裁判のジャッジメントが内含するのは、「裁判所の設立、あるいは審理、あるいはその根拠、管轄権の問題、あるいはその様々なこの訴因のもとになります事実認識、それから起訴状の訴因についての認定、それから判定、いわゆるバーディクトと英語で言いますけれども、あるいはその刑の宣告でありますセンテンス、そのすべて」である。
すなわち、sentence は judgment のごく一部に過ぎない。
(2) つまり、この異説は、「『裁判』は誤訳で『諸判決』が正しい」と言いつつ、勝手に judgment(判決)を sentence(刑の宣告)にすり替えているのである。
(3) そもそも、裁判を認めないと言うなら、認めない裁判の判決をどうして受諾できるのか?「判決の受諾」には「裁判の受諾」が必要である。また、裁判を受諾すれば判決も受諾する。つまり、必要十分条件である。ゆえに、日本国が「judgments を受諾する」ことと「裁判を受諾する」こととは同等である。
(4) さらに、前述のように東京裁判の判決の中には「駄目押し」まで書き込まれている。その周到さは、ある意味、気味が悪いほどである。
【結論】
11条の趣旨は、次のようなものと考えられます。
「日本国は、すべての戦犯裁判の判決を受諾する。受諾することによって、刑の執行はどうなるか。国外拘禁者については、連合国による執行の継続を認めることになるし、国内拘禁者については日本が引き継ぐことになる。ただし、どちらも早期釈放許可を連合国に請願できる。釈放許可の手続きは次の通り。……」。
お礼
私の質問の趣旨を理解し、その質問に対し完璧に回答し、 かつ質問の背景を推測し、本質問以外の周辺の疑問を解消するほどの丁寧な回答をいただきましたことに感謝し、また敬服いたします。 ありがとうございました。