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『日本国語大辞典』
くしろ【釧・釼】《名》 上代の装身具。手首や臂(ひじ)につける輪状のかざり。貝、石、玉、金属などで作り、さらに鈴をつけたものもある。ふつうは両手につけるが、片手のときは左手につけたようである。彌生時代から古墳時代にかけて用いられた。くじり。
*万葉(8C後)九・一七六六「吾妹子は久志呂(クシロ)にあらなむ左手の吾が奥の手に纏きていなましを〈振田向〉」
[語源説]
(1)朝鮮語 kusil(珠)と同源〔万葉集=日本古典文学大系〕。
(2)クシシロ(櫛代)の義か〔和訓栞〕。
(3)クサル(鏁=金偏に巣の旧字)の名詞形クサリの転。珠や鈴をくさりつけたのがもとか〔大言海〕。
(4)クシ(奇)に接尾語ロを付した語〔日本古語大辞典〕。
(5)コヱシラセ(声令知)の義で、鈴の音をいう語〔名言通〕。
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『広辞苑』
くしろ【釧】 装身具の腕輪。多く古墳時代の遺物をいう。石製品が多いが、銅・貝製品もあり、小玉・小鈴をつけたものもある。ひじまき。たまき。
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『大辞林』
くしろ【▼釧】 古代、飾りとして手首や臂(ひじ)にはめた輪。石・貝・金属などで作る。たまき。ひじまき。ひじたま。
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『大辞泉』
くしろ【×釧】 古代の腕輪。貝・石・青銅・鉄などで作り、青銅製のものには鈴をつけたものもある。ひじまき。たまき。
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『新明解』
くしろ【釧】 〔雅〕ひじにはめた古代の装飾品。
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『明鏡』『岩波』
くしろ【釧】の項目なし。
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北海道の地名の「釧路」は、この古代の「釧」とは全く無関係。古くは「クスリ」と言い、「久寿里・久摺・久須里」とも書いたそうです。
以下は「釧路」の地名の由来説。
(1)松浦武四郎著『蝦夷地の道国郡名字上書』
「クシル(越路)と命名仕度候 <中略> 舎利領、又根諸領の土人往来の処なれば、クシルと申候事に御座候。又一説、クスリにて温泉の薬水の義とも申候」
(2)永井方正著『北海道蝦夷語地名解』
「咽喉の意の蝦夷語 kutharo から」
(3)バチェラー著『アイヌ語より見たる日本地名研究』
通路の意のアイヌ語 kushu-ru から。
ちなみに、「釧」は当用漢字や後の常用漢字にもなく、現代語で「釧路」の地名の他にほとんど用のない文字ですが、JIS漢字コード(1971年制定)の第一水準に収録されています。
その理由は、JIS漢字コードの文字選定基準のひとつに、制定当時の都道府県名・市区郡町村名をすべてコンピュータで扱うという目的があったためです。
お礼
丁寧な解説ありがとうございます。そういえば、釧路市内に久寿里橋ってありますね。