同じようなことは、純血を重んじるほとんどすべての家畜の繁殖現場で信じられていると思います。特に犬や馬です。
他種や雑種とかかったメス犬は、その後もう同種のオスとかけあわせても生まれる子犬は純血ではないとか、馬についてもご質問に挙げられる通りです。
愚かしいことに、これは現代の血統協会にすら頭から信じ込んでいる人がいたりします。しかしそんなことはあり得ません。
かなり以前によく似た質問に回答したことがあります。他にも類似の質問はあります。
血統書付きのメス犬を飼っていて、他の品種の子供を産んでしまったのでもう繁殖に向かないのではないかと相談するような内容です。
私が知る限りでは、これは無知と誤解がもとです。約150年前に、スコットランドのモルトン卿という人物が所有していたメス馬と、オスのシマウマをかけあわせたそうです。このとき生まれた子馬の体には当然ながら縞模様があったとか。
その後、純血のアラブ馬とそのメス馬を交配させたものの、その時にも「縞模様のある子馬」が生まれたそうです。「男の精力が女の腹を借りて子供を生ませる」と信じられていた時代、モルトン卿は「シマウマのなにかがメス馬の体内に残り、今なおメス馬を支配している」といったような発表をしたようです。
生き物の中には長期間オスの精子を保存して繁殖する種もいます。異性同士が繁殖期にうまくめぐり合う可能性が低い生き物や、繁殖期に適した時期と、実際子育てするのに適した時期とがかなりずれている生き物などに見受けられます。
このように仕組みが様々なのですから、科学的な裏付けが得られない時代、同種以外と交配しないよう厳しく管理することだけが"血が混ざる"ことを防ぐ唯一絶対の手段だったのではないでしょうか。
そして、実をいうと人間でも似たようなことが言われたりします。これはおそらく配偶者防衛の心理から出たものでしょう。
男性が自分の子供を確実に得たければ、自分が獲得した女性の周辺から他の同性を取り除かなければなりません。 このため、多くの社会で女性を物理的に監禁するとか(大奥や後宮、"深窓の令嬢"とか十二単から纏足まで)、社会規範により女性の行動を制限する(貞操観念や姦通罪が女性にのみ課せられるなど)といった制限があります。
現代の日本人も、自分の配偶者である女性が自分以外の男性の子供を産むということに穏やかでいられない方がほとんとではないでしょうか?これもそうです。
特に人間は男性の論理のほうが優遇される社会が長く続いていますから、それを背景に家畜に対しても「他のオスの子供を生んだメスは繁殖として不適当である、汚らわしい存在である」という認識が生まれたのではないでしょうか。
それが純血ということがあまり重要でない家畜よりも、人工授精すら禁じて血統を守るサラブレッドの世界や、純血であることが直接経済効果を生み出す血統書付きの犬などの世界に顕著なのはそのためではないかと思います。
ともかく、動物によっては前述のように「かなり前のオスの精子も保存している」という種はありますが、馬や犬やヒトで仰るようなことはありません。
単なる迷信です。
お礼
やはりそういった類の迷信(?)は世界に幅広く存在していたのですね。ありがとうございました。