ずいぶん前の質問で、質問者が以下の回答をご覧になることはほとんどないと思いますが、今このQ&Aをご覧になっている人のためにも回答を投稿しようと思います。
興奮が伝導する仕組みは、高校の生物の教科書では、神経繊維の内外を「活動電流」が流れることで説明されています。しかし、結論を先に言いますと、神経繊維の内側も外側も、どこにも「活動電流」などというものは流れていません。「活動電流」などというもので説明しようとするから理解できない説明になってしまうのです。
神経繊維の中を興奮が伝えられるのは、興奮部に流れ込んだNa+が狭い範囲に集中することによりその周囲に「電位の高い状態」が生み出され、この「電位の高い状態」が波となって周囲に広がっていくからです。空気中を音波が伝わるのと同じ現象です。(Na+がずるずると神経繊維の中を移動していくのではありません。神経繊維の中をイオンが電流のように流れていくことはありません。)
この「電位の高い状態」が神経繊維の中を波のように伝わるとき、その「広がり方」はNa+が流れ込んだ部分を中心とする球面波となります。つまり、神経繊維内を波が伝わるときその「波面」の表面積はどんどん大きくなっていきます。表面積が大きくなると、「電位の高い状態」を作っている陽イオンの濃度が小さくなり、したがって「電位の高い状態」がどんどん減衰していきます。つまり、神経繊維内を伝えられる興奮は、常に減衰していくのです。
ところで、「興奮伝導の3原則」というのがあって、その一つに「不減衰伝導」というのがあります。「軸索の直径が一定ならば興奮の大きさは減衰せず一定の大きさで伝導する」という内容ですが、これは神経繊維全体としての伝導において減衰がないことを述べているのであり、興奮部からその隣の興奮部までの伝導は上記のように常に減衰していきます。「不減衰伝導」というのは、興奮が次の興奮部に到達したとき、そこのNa+チャネルが開いてNa+が神経繊維内に流れ込み、再び「もとの高い電位」に「復活」することにより神経繊維全体としての伝導は減衰がないということなのです。
もしも、興奮部からその隣の興奮部までの伝導が減衰しないというのであれば、それはすなわち神経繊維内のあらゆる部分で常に減衰しないことを意味するわけですが、そうなると、神経繊維の途中に電位依存性のNa+チャネルなど必要がなく、神経繊維の「入口」から「出口」までずっと興奮が減衰しないで伝わることになります。実際には減衰が起こるからこそ、「興奮の強さを復活させる」ために一定の間隔で興奮部が必要になるのです。
つまり、ご質問にあるように「情報が減衰しない」というのは、神経繊維全体について述べているのであり、実際のところは「(興奮部とその隣の興奮部との間での)減衰」と「(隣の興奮部での)電位の復活」を繰り返しながら、興奮が伝えられるのです。
実は、上記の説明にはまだまだ「説明不足」の部分があります。紙幅の都合でこの程度の説明しかできません。
お礼
わかりやすいお返事ありがとうございます。 大変参考になりました。