サルの個体識別ですが、孤島の個体群や孤立した個体群、または餌場に完全に餌付けされた個体群では「顔」を覚える方法がとられたようですが、広い遊動域を持ち、複数の個体群が同一地域に存在する様な環境ではこの方法は実質不可能になります。そこで、檻による捕獲を行って、顔や唇などに入れ墨を入れて個体識別しています。ニホンザルの生態をとらえた写真集など見ることがありましたら、注意してご覧下さい。地域によっては、ほぼすべてのサルに入れ墨が入っています。
さて、サルの擬人化の件ですが、研究者の間でも過度の擬人化には反省する動きがあるようです。たとえば、ボスザル、などという言葉もあまり使われなくなりました。ただ、サルはサルの方法で文化を継承している、という発見はこの擬人化の過程なくては見つからなかったことでしょう。
以下、最近出たサルに関する図書を紹介します。
「サルとすし職人」フランス・ドゥ・ヴァール著、原書房
外国人から見た日本サル学を記した本です。サルの言語によらない文化の伝達をすし職人が弟子に技を盗ませる姿にたとえています。
「ニホンザルの自然誌」大井徹、増井憲一編著、東海大学出版会
下北半島から屋久島まで、山村で暮らす人々やフィールドの研究者が肌で感じたニホンザルの実際を網羅しています。戦前は各地でサルが広く食用とされていたのには驚きました(現在は狩猟鳥獣から外れています)。
「霊長類学のすすめ」京都大学霊長類研究所編、丸善株式会社
サルの進化、生態、知能、体の構造から酵素まで、様々なアプローチで霊長類に迫ります。
「ヒトの社会とサルの社会」島泰三著、大修館書店
サルの子殺しの話を中心として、日本のサル学の過去と現在を概観します。今西錦司や河合雅雄への批判(餌場サル学への批判)は結構辛辣です。
お礼
入れ墨でしたか・・!それなら遊動域が広い場合でも大丈夫そうです。 擬人化について好ましくないと今まで正直思っていましたが、考えが変わりました!研究・関心を深める点でメリットがあったんですね。「サルはサルの方法で文化を継承している」という言葉が好きでした。「ヒトはヒトの方法で文化を継承している」ことと比較するのは面白そうです。 紹介して頂いた本はちょっとづつ読んでみたいと思います!ありがとうございました!