>昔は太ってるのが美人やイケメンの条件だったのに今は痩せて引き締まってるのが美しいとされます。
興味深い説ですが、日本に範囲を限っても実証するのは難しそうです。確かに、縄文時代の土偶や、正倉院に収蔵されていて8世紀に作られたとされる「鳥毛立女屏風」(樹下美人図)の女性たちなどは「太目」ですが、単純に古代では太目が美人の条件だったとも言い切れないようです。
その一例が以下の万葉集の歌です。昔々、上総の国(今の千葉県)の周淮(すえ)という所に珠名(たまな)という伝説の美女がいました。万葉集巻第九にある長歌(1738)を読むと、古代人の(もちろん男性側から見た)女性の理想像がわかります。
…周淮の珠名は 胸別の ゆたけき吾妹 腰細の 蜾蠃娘子(すがるをとめ)の その姿(かほ)の 端正(きらきら)しさに 花の如(ごと) 咲(え)みて立てれば…
蜾蠃(すがる)はジガバチのことで女性の細腰のたとえです。胸が豊かで腰が細く、端正な美しい顔立ちで花のように笑っている、こんな美女に男たちが夢中になる…(この長歌の続きには「既婚男性が妻と離婚して頼まれもしないのに自分の家の鍵を渡す」とまで書かれています)…基本的には現代と変わりませんね。胸が豊かで腰が細い女性について「太っている」か「やせている」か単純には分類できません。
ただバストとウエストのサイズが同じような体型が好まれなかったことは明らかでしょう。
ところでジガバチが「細腰」の比喩になっているのは、この昆虫の胸部と腹部の境から腹部前半にかけて(腹柄部)が細い管のようになっているからでしょうけれど、その前後は膨らんでいますから、単純に「腰が細い」というだけでもダメなのでしょう。胸は大きく腰は細くとくれば、昔も今も世の匹夫の多くは「ヒップは大き目」を求めるのではないでしょうか。
ところで、目を外国に広げると、古代ギリシャの愛と美の女神像とされるミロのヴィーナスはやや「太め」で「細腰」とは言えませんね。昔も「理想の女性」像は単一ではなく、民族によって違いがあったということでしょうか。ただ「痩せすぎは好まれていない」ということは共通していそうですが。