普通異物が体に入ってくると、人体は免疫細胞というものが出動し、その異物を取り込み分解します。
たいがいの菌は免疫細胞によって殲滅されます。
とはいえ、大量の菌がはいってきたり、菌自体が増殖するとこちらの防衛力にも限界があります。
だったら、菌というのは生物ですから、殺せばいいという考えがあり、菌らしきものがきたら全部殺せということができる薬品を開発できます。これが抗生物質です。
それに対して、ウィルスというのは無生物です。免疫細胞を呼び出し稼働させるに値するものかどうかの判断がむつかしい。また、抗生物質では一切効果がありません。生きていないのだから殺しようがないのです。
ウィルスはなにをするかというと、とっかかりのある金具のようなものであって、細胞に引っかかるのです。そしてそこに食いこみ中のほうに間違った情報を伝達する。そうするとそれが異常細胞となり、体内を駆け巡りますので発症するのです。
そいつは異常細胞として見えますから免疫の範囲になりますが、すでに二次災害になっていますので本質の解決はむつかしい。
この汚染された細胞がぶつかって、じぶんにひっかかったカギを移してそちらを壊す場合もありますが、汚染された状態で細胞分裂をし、自分を増やすということのほうが多く、これは外から来た敵ではなく自分の中に不穏分子をかかえることになりますから、始末がわるい。二次災害のほうが被害が大きいということです。インフルエンザなんかで、のどが痛い呼吸が苦しい、くしゃみが出る、高熱が出る、というのは、こういう二次災害の結果広がった延焼なんです。
また、昔から「風邪は万病のもと」というのはこのことで、必ずしも呼吸器だけが異常を起こすわけじゃないのです。連鎖して三次災害四次災害を引き起こすことを言っているのです。
人体の特定部分だけ攻撃するわけじゃありません。最初の一次災害が発生したときは、とりついたその付近にワルサをしていますが、二次災害三次災害になると、どこに弊害をもたらすかはわからないのです。
体はウィルスみたいなものを相手にする防衛策として、抗体というものを作ります。相手がこういう形のカギ状のバールをひっかけてくるんだから、それを受け止める形をもった手を自分に作り、こいつを取り込み、そのまま自殺するような細胞を作るんです。こういうものは、相手の武器の形を調べて覚えなければなりませんから、初めてきたウィルスには対応できません。勉強しないといけないのです。
で、どこかでわざわざウィルスで発症させた生き物を作り、そこから抗体を取り出して、そいつを体にいれたらいいじゃないか。それがワクチンです。
ワクチンは敵の形によって別々のものですから、A型とかB型というタイプ別の形で提供されます。すでに物事を覚えたものですから、体の中にもともとあった細胞に伝達することができます。勉強のできる子が転校してきたら、皆の偏差値が上がったようなものです。
また、抗体は病気の発見にも使われます。ある病気の抗体が体にあるのか、あるとしたらどの程度あるのか、を調べることができると、「その病気にかかってる可能性がある」という判断をするのです。勉強した細胞たちが何かと戦っていないかどうかを調べるのです。