#2です。補足をありがとうございます。
黒鉛が、「共有結合結晶であり、かつ分子結晶でもある」ということでしたら、
(1) すべて正四面体構造を持つ。
は、選択肢から はずれますね。そうすると
(2) ほとんど正四面体構造を持つが、例外もある。
が当てはまるかどうかが問題になります。
回答が長くなってしまったので結論を先に言うと、高校化学の範囲では、
「例外もあるが、ほとんど正四面体構造を持つ」といえます。
■単体
金属元素の単体は金属結晶ですから、非金属元素の単体を考えます。さらに、結合の手を1本以下しか持たない水素とハロゲンと希ガスの単体は、共有結合結晶にはなりえませんので除外します。
そうすると、単体が共有結合結晶になりうる元素は、
B,
C,Si,Ge,
N,P,
O,S,Se,Te
に限られます。これらの元素の単体のうち、N2,O2,O3,P4,S8 は分子なので除外すると
B,
C,Si,Ge,
P,
Se,Te
が共有結合結晶になる元素です(Pには黄リンと赤リンの他にも同素体がある)。
これらの元素の単体のうち、C(ダイヤモンド), Si, Ge のみが正四面体構造を持つ共有結合結晶です。B,P(黒リン),Se,Teは正四面体構造を持ちません。C(黒鉛)もまた正四面体構造を持たないことをふまえると、正四面体構造を持つ共有結合結晶よりも、持たない共有結合結晶の方が多いので、「ほとんど正四面体構造を持つ」とは言えないことが分かります。
ですけど、B,P(黒リン),Se,Teの単体の結晶構造などは高校化学の範囲外でしょうから、高校化学の範囲では、「ほとんど正四面体構造を持つが、例外もある」といっても間違いではないでしょう。
■二元化合物
高校化学の範囲内では、金属元素を含む化合物は原則としてイオン結晶なので、非金属元素の化合物を考えます。希ガスの化合物も高校化学の範囲外なので除外します。また、話を簡単にするために、ふたつの元素だけからなる化合物について考えます。さらに、水素やハロゲンを含む化合物は分子性のものが多く、ポリエチレンやテフロンなどの高分子は結晶化しにくい物質なので、水素やハロゲンも除外します。
そうすると、先ほどと同じように共有結合結晶になりうるのは、
B,
C,Si,Ge,
N,P,
O,S,Se,Te
の化合物に限られます。高校化学ではGe,Se,Teの化合物は扱わないと思うので
B,C,Si,N,P,O,S
の二元化合物で、さらに高校化学で扱われそうな化合物に限定すると
BN,B2O3,
SiC,CO2,CO,CS2,
SiO2
NO2,NO,
P2O5,P2O3
SO3,SO2
に絞られます。これからさらに分子性の化合物を除くと
BN,B2O3,
SiC,SiO2
しか残りません。
これらのうち、BNとB2O3にはどちらにも、正四面体構造を持たない結晶と、正四面体構造を持つ結晶があります。
http://en.wikipedia.org/wiki/Boron_nitride#Structure
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Kristallstruktur_Bortrioxid.png
(正四面体構造を持つB2O3の良い図が見つかりませんでした。ごめんなさい)
ちなみに、高校の理科室においてある(かもしれない)窒化ホウ素は大抵の場合、正四面体構造を持たない結晶で、高校の理科室においてある(かもしれない)酸化ホウ素は大抵の場合、結晶ではなく非晶質(ガラス)です。
ホウ素の共有結合結晶が正四面体構造を持たない理由は簡単で、ホウ素が結合の手を3本持つからです。
ホウ素の共有結合結晶が正四面体構造を持つ理由も簡単で、ホウ素は配位結合により結合の手を4本持つこともできるからです。
結局、高校化学で扱われそうな非金属元素の二元化合物で分子性ではないものは、BN, B2O3, SiC, SiO2 くらいしかありません。正四面体構造を持つ結晶がBN, B2O3, SiC, SiO2の四つ、持たない結晶がBN, B2O3の二つと考えれば、「正四面体構造を持つが、例外もある」というよりは、「正四面体構造を持つものが多い」というほうが適切でしょう。ですけど、B2O3結晶は天然に産出せず、実験室にあるB2O3はふつうは非晶質ですから、この物質を除いて考えることにするなら、高校化学の範囲では「ほとんど正四面体構造を持つが、例外もある」といってもいいでしょう。
■正四面体構造を持つ理由
共有結合結晶をつくる化合物に正四面体構造を持つものが多いのは、14族元素とその前後の族の元素が共有結合結晶をつくりやすいため、と考えられます。
14族元素は、結合の手を4本持ちますから、正四面体構造をとりやすいです。
13族元素は、配位結合して電子対を受け入れれば結合の手を4本持ちますから、正四面体構造をとることができます。
15族元素は、配位結合して電子対を与えることで結合の手を4本持ちますから、正四面体構造をとることができます。
例えば13族元素と15族元素がつくる化合物は、GaAsなどが有名ですが、これらはほとんど全て正四面体構造を持ちます(BNは例外)。
また、P2O5にはよく知られた分子性のP4O10の他に、共有結合結晶もあります。
http://en.wikipedia.org/wiki/Phosphorus_pentoxide#Structure
この図から分かるように、SiO2と似たような形式で、結晶中で正四面体ユニットが無限に連なっています。
SiO2では、正四面体ユニットの頂点にある酸素原子はすべて、隣り合うケイ素原子に共有されています。
それに対してP2O5では、正四面体ユニットの頂点にある酸素原子のうちの3個が、隣り合うリン原子に共有されています。残りの頂点にある酸素原子はリン原子と配位結合しています。P2O5が正四面体構造を持つのは、この配位結合があるからです。
■まとめ
「金属元素の単体は、最密充填構造をとるものが多い」というのと同じくらいの気持ちで、「共有結合だけで三次元的に原子が結合している結晶は、正四面体構造を持つものが多い」といってよい(後述のMOFは除く)。
とくに、高校化学の範囲では、「共有結合結晶は、例外もあるが、ほとんど正四面体構造を持つ」といえる。
正四面体構造を持つ共有結合結晶の例:C(ダイヤモンド),Si,Ge,BN(立方晶),SiC,SiO2,GaAs.
正四面体構造を持たない共有結合結晶の例:C(黒鉛),BN(六方晶).
□高校化学の範囲外の話(受験勉強の息抜き)
炭化ホウ素 B4C
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%82%AD%E5%8C%96%E3%83%9B%E3%82%A6%E7%B4%A0
ホウ素はB12の正二十面体構造をしばしば持ちます。
ポリチアジル (SN)x
http://en.wikipedia.org/wiki/Polythiazyl
結合の手が2本しかないと、1次元鎖になります。
金属イオンとの配位結合を共有結合に含めると
http://blog.livedoor.jp/route408/archives/52053304.html
配位高分子(Coordination Polymer 略してCP)とか金属有機構造体(Metal-Organic Framework 略してMOF)などと呼ばれるものになります。
お礼
二度目の回答、ありがとうございます。 今、回答して頂いて、化学で最初の方に習った共有結合のことを少し思い出しました。 私が先ほど例示した共有結合結晶は、CやSiで14族元素だったということから、手が4本のものばかりで、四面体構造のものがたまたま出揃っていたんですね。 最外殻電子などの基礎的なことを忘れていました。 閉殻状態が電子8つなので、最外電子殻に含まれる最大の共有電子対(=手)が4ということですよね。 とても参考になりました。回答ありがとうございました。