約60年ほど前の事になります
この御話は実際に有った事です
幼い私もその方の話を家族と一緒に聞きました
これから「日本昔話」風に記述します
以下は少し長く成りますが面白い話ですので御付き合いください
近畿地方のある山奥の話じゃったそうな
在る村の大工をしていた屈強な若者が
ある日のこと
御贔屓にしてもらっている分限者(御金持)さまの
一人娘の婿取り婚礼の席に呼ばれて出向いたそうな
田舎の婚礼の事とて夕方から始まって
無事に婚礼が終わるのが日もとっぷり暮れてからじゃった
それから始まる婚礼の披露宴は夜っ引いて続いた
呼ばれていた大工の若者も大層に御酒を呼ばれて
それはもうヘベレケに酔っぱらってしまった
お料理も鱈腹食べてお腹がくちくなった大工は
ついウトウトとして目が覚めたのは夜中近くなってからだった
同席の村の者に起こされた大工はまだ十分に酔っぱらっていたが
明日も仕事が有るので分限者様に丁寧にお礼を言って帰ろうとした
「おい、これを持って帰ってくれ」と出されたのは引き出物の立派な折詰めだった
昔の事、ましてや田舎の事じゃやよってにタクシーなんぞ有りゃせん
酔っぱらった足で幸い月明りだったのでとぼとぼと我が家の方に向かって歩いて行った
若者大工の家は御分限者様の家とは山を挟んで反対側の谷に有ったので
ぐるっと山を回り込むようにして我が家に向かっている田舎の明かりもない山道を
酔っぱらっていたがしっかりした足取りで歩いて行った
途中まで来ると山の上に向かって広い道が開けている
「おかしいな、こんな道が有ったかな、だがこの道をまっすぐ行くと我が家へは近道だ」と思った若者は
深酒の酔いも手伝って正常な判断が出来ず少々きつかったが登って行ったが
余りにも坂がきつかったので疲れてしまって坂の途中で道端の石に腰掛けて一休みした
疲れや酔いも手伝ってつい眠りこけてしまったそうな
カラスの「ガーガー・・・・・」と言う声で目を覚ました若者は一晩中そこで寝てしまっていた事に気が付くと
慌てて起き上って見ると夕べ貰って帰った折詰めはそこら辺りにサンバラバンに広がって
カラスが食い漁っていたそうな
「こらっ」と怒ってカラスを追っ払ったが後の祭り
婚礼の引き出物の立派な折詰めは跡形もなく見事に食い荒らされていたそうな
落ち着いて辺りを見渡すと日はとっくに山の端に上がって居て
若者が眠って仕舞っていたのは何時も下を通っている山裾の道を少し山に上がった
“御稲荷さん”の祠の前だったそうじゃ
慌て急いで山裾の道に戻って若者の家への途中に有る我が家に助けを求めて転がり込んだ
体中を蚊に刺され顔は大方倍にも膨れ上がった顔で我が家に転がり込んで助けを求めて来た
その時の第一声が「狐に化かされた」「立派な道を行ったら寝てしもうた」だった
これがその大工の言う事の顛末ですが
今から考えると
大工が途中で寝込んでしまって恰好が付かないのでこの様な作り話をしたのかもしれません
しかし60年も前、戦後すぐの事、この様な話がまかり通っていた時代の話です
解答にはなって居ませんが何かのご参考にして下さい。
お礼
ははぁ~、然うでしたか、自分の無様さを隠す「方便」だったとは、此れ如何に、成る程、有り難う御座居ました。