交通事故では運転者は、刑事、行政、民事上の責任を負います。
刑事責任については、未成年者は家庭裁判所へ送致され、少年審判を受けるというのが通常の流れになりますが、法定刑が懲役・禁錮等の比較的重い犯罪を犯した場合は、家庭裁判所から検察庁に事件を送り、成人と同様に刑事裁判を受け、懲役・禁固刑となる可能性もあります。
この場合、道交法違反(無免許運転)と自動車運転過失致死傷罪(刑法211条第2項)の併合罪とされると最長で8年以下の懲役・禁固となります。
また、危険運転致死傷罪が適用されるとすると、1年以上の有期懲役となります。
今回の運転者は1度も免許の交付を受けていませんから、危険運転の適用要件「その進行を制御する技能を有しない状態での運転」に該当します。ただ、実際の適用に関しては、運転者に危険運転の認識があったという故意性の立証が必要ですから、今の捜査段階ではなんともいえません。
同乗者は道交法違反(無免許運転)幇助で未成年ですから、家裁送致の可能性の方が高いでしょう。保護処分が科せられるかどうかは、同乗者の反省の程度や家庭状況等を勘案してのこととなりますから、なんともいえません。
また、運転者が無免許と知って車を貸した者も道交法違反(無免許運転)幇助に問われます。
行政責任は、運転者が運転免許を取得しようとしても、一定期間は運転免許の交付が拒否されます。今回の運転者は2年前にも無免許運転で同様の処分を受けていますから、今回は5年間の免許拒否となるでしょう。
民事責任は、損害の賠償です。
運転者は未成年ですから賠償資力はないに等しいでしょう。その場合、監督者である親に賠償責任があるかどうかが問題になります。
判例では、監督義務者である親に不注意があり、その不注意と未成年者の不法行為によって発生した損害との間に相当因果関係があれば、監督義務者が不法行為責任を負うとされます。
具体的には
(1) 監督義務者が相当の監督をすれば事故を防止できたこと
(2) そのような監督をすることが現実に可能であったこと
(3) 監督をせずに放置していた場合に事故の発生する可能性が高いこと
等の場合には、相当因果関係が認められるものとされています。
例えば、未成年者の子供が以前より無免許運転や飲酒運転を繰り返していたにもかかわらず、親が注意あるいは制止することなく、これを放置していたとして、加害者の親が損害賠償を負わされた事例があります。
また、親の不法行為責任が否定されたとしても、賠法3条に規定する「運行供用者」(運行の支配権や運行利益有する者)、具体的には、加害車両の所有者、加害車両を運転していた運転者の雇主、加害車両を運転していた者などは、損害賠償責任を負います。
車の所有者は、運転者が無免許であったことを知らなかったとしても、賠償責任は免れられません。
損害額は、胎児を含めた死亡者3名で1億円は越えるかもしれません。重体・重傷者に重い後遺障害が残った場合、逸失利益・慰謝料のほか将来の介護費用も損害として認定されますから、1人2~3億円となることも考えられます。被害者すべてが完治するか、症状固定とならないと損害額は確定しませんが、総額5億円以上となるかもしれません。
事故を起こした車の自動車保険は、無免許運転の場合でも対人・対物賠償保険金は支払われますし、示談交渉も行ってくれます。
運転者の年齢条件がつけられていた場合であっても、一部の保険会社では「年齢条件の不適用特約」が自動セットされています。この場合は、対人・対物賠償保険金が所定の割合で削減されて支払われますが、保険会社は示談交渉を行ってくれません。
もし、保障される運転者を家族等に限定する特約がついていた場合は、事故を起こした車は他人から借りた物とのことですから、保険は支払われません。
しかし、運転者の親の車の保険があれば、他車運転特約の対象となり、対人・対物賠償保険金は支払われます。ただ、無免許運転ですから、借りていた車の損害については、保険金は支払われません。
無免許運転を幇助した同乗者や車の所有者にも損害賠償が命じられる可能性は十分にあります。
興味深い判例として、福岡市で飲酒運転の車に追突されて幼児3人が死亡した事故で、加害者に依頼されて大量のペットボトルの水を提供した友人に対し、被害者からの請求により200万円の賠償を命じた判例があります。