> 遷移元素と決定的に異なる点は何かについても述べよ。
遷移元素というものを、“中性原子または陽イオンの状態で”d軌道に“中途半端な”空きがあるものと考えた結果が、『12族元素は遷移元素ではない』とすることの根拠です。
「陽イオンの状態で」という但し書きが必要なのは、ふつう遷移元素に分類される11族元素のCu,Ag,Auも、中性原子のときには12族元素と同じようにd軌道が充足しているからです。化合物や水溶液などの中では、Cu^2+やAu^3+などのようにd軌道が空いた陽イオンができることから、11族元素は遷移元素に分類されます(銀が陽イオンになるときには、1価のAg^+になることが圧倒的に多いのですけど、Ag^3+やAg^2+を含む化合物もいくつか知られています。あるいは銀の金属単体を自由電子と陽イオンからできているとみなしたときに、4d電子のうちの幾つかが5s電子と同じように自由電子になる、と考えてもいいです)。
「中途半端な」という但し書きが必要なのは、これがないとd軌道が完全に空いている1族元素と2族元素が遷移元素に含まれてしまうからです。
> 遷移元素と似ている点というのは、その12族の元素が陽イオンになったときは、電子を放出しますので、上記のd軌道に空きができます。言い換えれば、イオンになった状態では遷移元素に相当する電子配置をとることになります。
12族元素が陽イオンになるときには、s電子を放出してイオンになります。イオンになった状態でも、d軌道は満員のままで空きはできません。
> 遷移元素の性質は、このd軌道やf軌道が充足されていないために、s軌道よりも外側にも広がり
3d軌道や4d軌道は、基本的には、それぞれ4s軌道や5s軌道よりも内側にあります。3d軌道や4d軌道の広がりは、それぞれ3p軌道や4p軌道と同じくらいです。
> 複数のイオン価をもつというのが、遷移元素と同じかな。
12族元素の陽イオンは原則として2価です。水銀は1価になるのでは?と思われるかもしれませんが、酸化数1の水銀イオンの正体は、[HgHg]^2+という二原子イオンです。Hg^+という単原子イオン(または[Hg(H2O)n]^+という錯イオン)は、化学的に極めて不安定で、化合物や水溶液の中にはありません。