どちらも緊急避難とならないです。
既に指摘がありますが、不法行為における緊急避難とは、他人の「物」により生じた急迫の侵害を避けるために「その物」を損傷した場合に「その物」の損害については「不法行為の基本となる4つの要件(1.故意過失、2.法的保護に値する利益の侵害、3.損害、4.2と3の因果関係)を満たしていても」不法行為とならないというものであり(民法720条2項)、設例1,2はいずれも物から生じた侵害でないため緊急避難とはなりません。
なお、緊急避難の成否と緊急避難の対象となる物の損傷について、故意過失は関係がありませんので、
>1は過失があれば緊急避難にならない場合もあるでしょうが
これも間違いです。過失があろうがなかろうが関係ありません。
故意過失の有無はそもそも不法行為の成立要件であり、不法行為の成立を阻却する特別の事情としての緊急避難の要件ではないです。緊急避難は「不法行為の基本となる4つの要件を満たすことを前提に」、なお不法行為とならない場合であって、故意過失がなければそもそも前提たる不法行為の基本となる4つの要件を満たさないので緊急避難を論じる前提を欠きます。故意過失がなければ緊急避難を論じるまでもなく不法行為が成立しません。
もっとも、故意過失の対象が不法行為に該当する行為以前の行為である場合にいわゆる自招危難の問題となることは考えられますが。いわゆる自招危難は一応、後述。
ところで補足ですがANo.3の例は理論的に緊急避難と正当防衛(720条1項)が同時に成立し得ます(理論的には正当防衛が成立する場合には緊急避難は成立しないと考えることはできますが、この際どっちでもいいです)。
そして、暴走車にぶつけたことで例えば「その暴走車の運転者が怪我をした」場合には、「その怪我については」正当防衛のみが成立し、緊急避難は成立しません。緊急避難はあくまでも「その物の損傷」だけが対象で、それ以外は対象ではありません。
なお、車両の暴走の場合にはたいていは運転者なりの故意過失があるので多くは正当防衛の余地があることになります。
ともかく、交通事故で正当防衛、緊急避難が成立することは具体的にはほとんどありません。
余談ですが、刑法で考えると1は緊急避難成立の余地がありますが2はまず成立しません。
2は意識を失いそうになったことに故意過失がなければそもそも構成要件に該当しないので緊急避難を論じる前提を欠きます。仮に構成要件該当性を満たすとして、追突したことは単にコントロール不能になってぶつかっただけである限りは「現在の危難を避けるためにやむを得ずにした行為」とは言いがたいので緊急避難は成立しません。もっとも、そもそも緊急避難は個別具体的な事情によって判断するものなので状況いかんによって絶対に成立しないとは言いませんが。なので「まず」成立しません。
1はいわゆる自招危難の教科書事例でもあるのですが、飛び出しに対する注意を怠ったかとか運転自体が危険でなかったかなども問題になります。法規に従い十分注意していても避けられなかった上に、急ハンドルを切るのやむなしというのなら緊急避難になり得ますが、速度を出しすぎていたために停止できずに急ハンドルを切らざるを得なかったとか飛び出しに対する注意を怠ったために止まれずに急ハンドルを切ったとかなると緊急避難が成立しない可能性はあります。これも最終的にはあくまでも個別具体的事情によるのですが。なお、そもそも十分止まれたし普通の人なら止まるだけなのにわざわざ必要のない余計な急ハンドルを切ったとなると「やむを得ずにした」と言えず、緊急避難は成立しません。