まず最初に抑えておくべきことは1970年代のオイルショックの正しい解釈です。
多くの人は次のように考えていますが、どちらも誤りです。
(1) 原油価格上昇が主な原因で物価が大きく上昇した。
(2) インフレのせいで景気が悪くなった。
正しい認識は次の通りです。
(1') 原油価格が上昇するだけでは物価はほとんど上昇しない。
日銀による金融政策の失敗が無ければあれほど物価は上昇しなかった。
(2') インフレ自体は経済にとってほとんど害がない。
インフレのときに起こった不況は日銀がインフレを抑えるために
金融を引き締めたせいである。
原油価格の上昇が日本経済に悪影響を与えることを防ぐことはできません。
問題はその悪影響をどのように緩和するかです。
そのためには次の2つのキーワードについて学んでおく必要があります。
消費者物価指数:消費者物価指数とは同じ生活水準を保つために必要なお金の量を指数化したものです。
消費者物価指数の上昇率は生活費で測ったインフレ率だと考えられます。
GDPデフレータ:GDPデフレータは国内で同じ質のモノやサービスを生産したときに得られる金額を
あらゆるモノやサービスで平均を取って指数化したものです。
GDPデフレータの上昇率は同じ質の仕事で得られる収入で測ったインフレ率だと考えられます。
さて、原油価格が上昇すると生活費が上昇傾向になります(消費者物価指数の上昇)。
しかし原油価格上昇分のコストアップのすべてを製品価格に転嫁できないので、
同じ製品を売っても儲けが減ってしまい、
同じ質の仕事で得られる収入は減少傾向になります(GDPデフレータの下落)。
このような状態を続けながら、原油価格上昇のショックを日本経済が吸収するのは難しいことは明らかです。
原油価格上昇分のコストアップを製品価格に転嫁し易い経済状況を作り出した方が
原油価格上昇による経済的被害を減らすことができます。
日本のGDPデフレータは1994年頃からずっと減少傾向が続いています。
その頃から同じ質の仕事で得られる収入が減って来ていることを実感している人は多いはずです。
これがデフレの恐怖です。デフレは経済にとってひどく有害なのです。
日本以外の先進国ではGDPデフレータは毎年2~3%程度上昇しています。
日本だけがGDPデフレータを下落させ続けている。
その原因は日銀が引締め気味の金融政策を続けているせいです。
ときどき政策金利の高さで金融を緩和しているか引き締めているかを
判定する困った人たちをみかけますが、それは完全に誤りです。
金融緩和しているか否かはGDPデフレータが上昇しているか否かで判定されるべきなのです。
GDPデフレータが下落し続けているということは、
日銀がマネーサプライを増やすことをサボっているせいなのです。
そのために有効な手段を国内外の有識者から教えてもらったのに
日銀は拒否し続けて来ました。
原油価格上昇に立ち向かうためには、まず日銀に利下げを要求しなければいけません。
ゼロ金利にしても引き締めぎみの状態が続くのであれば
インフレ目標付きの量的緩和や長期国債買い切りオペの実施を迫るべきです。
インフレ目標は将来のインフレ率の高騰を防ぐために重要になります。
インフレ率は一時的に5%程度になることを許すが、
長期的には日本以外の先進国の平均値である3%程度で安定させるべきです。
これが答です。
次の日銀総裁がもしもこのような政策を行なうつもりがない人になってしまうと
日本経済は不況におちいり、原油価格上昇の被害も大きくなってしまうことでしょう。