すみません。油断してメールをチェックしたのが10時半過ぎだったもので回答が遅くなりました。
次のような順番でご説明したいと思います。
1 株式会社の公開性について
2 商法の改正過程とその背景
3 譲渡制限の程度
3.1 有限会社の場合
3.2 株式会社の場合
4 譲渡制限違反の譲渡の効力
5 まとめ
1 株式会社の公開性について
既にご存知の通り、株式会社と言っても、日本の株式会社のうち、数の上では圧倒的大多数が中小企業で閉鎖性の維持の要請が強い会社で占められています。有限会社との違いは資本金の額に違いがある程度で、実質的にはほとんど同じである場合が多いです。
また、後で述べますとおり、定款による譲渡制限〔商法204条1項但書〕の規定は、閉鎖性・非公開性を欲する圧倒的大多数の株式会社の実情から定められたもので、この規定の趣旨を株式会社の制度上の「公開性」の原則からのみ考えることはできないのです。
2 商法の改正過程とその背景
商法は、昭和25年まで譲渡制限の制度を採用していたものの、昭和25年に一度株式の譲渡の自由が絶対的に保障されることとなりました〔旧商法204条1項〕。
しかし、これは上記のような現実とのギャップを生むことになりました。そのため、昭和41年に現在のような、株式譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定款を設けることが出来る旨の改正がなされました〔商法204条1項但書〕。
この時の改正にあたり、有限会社法のように社員以外に譲渡する場合に限定しなかったのは、外資による乗っ取り防止などの目的で公開会社による同制度の利用も可能にしようとする意図があったことを指摘するものもあるそうです(『株式会社・有限会社法』江頭憲治郎著/有斐閣157頁。会社判例百選〔第六版〕29頁等)。
3 譲渡制限の程度
3.1 有限会社の場合
有限会社法の場合、その閉鎖性から社員間の譲渡は原則自由とされ〔有限会社法19条1項〕、社員以外のものに譲渡する場合に限り『社員総会』の承認を要するとされています〔同条2項〕。
3.2 株式会社の場合
それに対し、株式会社の場合、株式の譲渡は原則自由とされ〔商法204条1項本文〕、制限を設ける場合には『取締役会』の承認を要することを規定できるだけです。もちろん、株主以外に譲渡する場合にのみ取締役会の承認を要するとする定款を定めることも可能であると考えられています。
この場合、譲渡人以外の株主の利益保護が目的であるならば、取締役会の承認ではなく、株主総会の承認を得ることを要件とするのが理論的であると思われるのですが現実にはそうなっていません。それは、
(1) 実際問題として随時発生し得る譲渡承認請求〔商法204条の2〕に対し、
株主総会の承認を要するとしたのではあまりにも迅速性に欠け不適格で
あると考えられること。
(2) 株主総会の多数派に依拠して形成されているはずの取締役会に、その
判断を委譲したものと考えることができること
などの理由が考えられています。
つまり、上記(2)に示したように総会の多数派に依拠して形成されているはずの取締役会の承認を得ることができれば、譲渡株主以外の株主の利益を不当に損なうことは無いだろうと考えられているわけです。
これが、定款による制限がある場合でも株主間での譲渡については取締役会の承認を得なくて良いと考えると、それまで株主の多数派によって支持されてきた取締役会に対する影響は甚大なものとなり、『取締役会の承認』のみで良しとした規定の趣旨を没却することになります。もっとも、このように「取締役会が株主を選ぶ」制度には問題があることも指摘されています(『株式会社・有限会社法』江頭憲治郎著/有斐閣157頁)。
4 譲渡制限違反の譲渡の効力
また、最高裁は、譲渡制限違反の譲渡の効力について、会社に対する関係で効力を生じないだけで譲渡当事者間では有効であると判断していることは前回述べた通りですし、取締役会の承認が得られなかった場合でも、譲渡人は譲渡承認請求〔商法204条の2〕、譲受人は買受人指定請求〔商法204条の5〕をそれぞれすることができますので、既存株主が株式として投下した資本の回収の道を閉ざすものでもありません。
5 まとめ
以上のような立法経緯や株主保護の諸制度の存在などにより、問題が無いとはいえないものの、現行法は株主間の譲渡も取締役会の承認に係らしめていると考えられているのです(『株式会社・有限会社法』江頭憲治郎著/有斐閣157頁など)。
お礼
とても参考になりました。 お礼が遅れ、申し訳ありませんでした。 弁護士とよく相談して対処したいと思います。有り難うございました。