超電導体の上に磁石を浮かせる実験には,実はコツがあります。
超電導体は磁束を排除する性質がある,というのは皆さんのおっしゃる
通りです。そこで考えてもらいたいのは,永久磁石が発生した磁束線が
超電導体に入れずに重力に逆らうほどの力を生み出して磁石を浮かせて
いるということです。実験の条件として,充分に冷えて超電導になった
試料の上に永久磁石を持って来ることを考えます。永久磁石の発生する
磁束は超電導体に入れずに回り込みますが,その場合どこにも安定点は
ないので,磁石は空中を滑るように移動し,超電導体の外側に落ちて
しまいます。ではなぜ空中に停止させられるのか?それは,永久磁石を
超電導体の上に持って来る時に,一度表面近くまで押し付けているから
です。ここで用いているのは酸化物高温超電導体というもので,この
物質は第2種超電導体です。第2種超電導体は,一定の磁界以上で磁界
を侵入させる性質を持ちます。これを下部臨界磁界と言います。試料の
全てに侵入するわけでなくて,加えた磁界の大きさに比例して侵入する
磁束密度が増えます。一度侵入した磁束は,周りが超電導体ですから,
今度は外に出られなくなります。これが磁束のピン止めと言われる現象
です。No.3およびNo.5の方が回答の中で書いておられたことです。
ピン止めされた磁束はもともと永久磁石が発生していますから,磁石は
超電導体の上に浮上しながら,その場所を離れられなくなります。
この状態を逆さまにすると,まるで磁石が釣られているように見えます
ので,フィッシング効果と呼んだりします。
磁石が回転できるのは,永久磁石の磁界が最大になったポイントに
最も多くピン止めされ,そこが回転中心となるからです。ピン止め力は
かなり大きな力です。人間浮上できるような大型の超電導体と永久磁石
のセットですと,液体窒素が切れて超電導体でなくなるまで,上に乗った
永久磁石のセットを取り除くことができないほどです。
ところで少し用語の訂正をします。
・磁束を排除する効果はマイスナー効果です。ですが磁束を侵入させない
効果ではありません。
・磁束を侵入させない効果は,シールディング効果と呼ばれます。
この2つは,超電導の研究者ですら混同している人がいますが,まったく
別のものです。超電導体を磁界中で室温から冷却する場合には,
マイスナー効果が観測され,ゼロ磁界中で冷却するとシールディング効果
が観測されます。たとえば両者の磁化率の値は一致しないので,区別が
付きます。仮想的に,超電導ではないけれども電気抵抗がゼロの物質が
あったとすれば,両者は一致します。
ちなみに第1種超電導体というものも存在します。純粋な単一元素の
場合が多い(アルミニウムや鉛などです)です。この場合には,磁束の
侵入をある一定の長さ(磁界侵入長と言います)までしか許さないので
マイスナー効果とシールディング効果は一致します。超電導の教科書は
通常,この第1種超電導体から説明を始めるので,2つの効果が混同
されるようになったのではないかと思います。