ここまでの回答には出て来なかった用途として、銃弾の鉛の部分を金が代替する事になると考えられます。
同じ銃身から発射される場合、弾丸の質量が大きい方が、銃身内での速度が遅くなりますから、より長時間に亘って火薬の燃焼ガスの圧力を受ける事になり、その結果、軽い銃弾よりも運動量が大きくなるため、威力が増大します。
そのため銃弾には、密度の高い鉛が用いられているのですが、鉛の密度が11.34g/cm3であるのに対し、金の密度は19.30g/cm3と1.7倍も高い密度を持っていますから、価格が鉄並みに安いのであれば銃弾の材料として最適です。
それと、上記の話はライフル銃やハンドガン等で使用される通常の弾丸についての話ですが、散弾の材料として金を使用出来れば、更なるメリットがあります。
散弾銃の弾丸は単なる鉛の粒であるため、この散弾を使用した際に、自然界に鉛の粒がばら撒かれる事になり、それを野生動物が呑み込んで鉛中毒になってしまう事が問題となっています。
そのため現在では、多数の鉛の粒の代わりに、多数の小さな鉄球を詰めた散弾が使われる様になって来ているのですが、鉄は鉛よりも軽いためと、鉛よりも変形し難いために、威力が落ちるという難点と、鉛の粒を大量に作る事に比べて、鉄の粒を大量に作る事の方が手間が掛かるために、鉄製の散弾の方がコストが高くつくという難点があります。
その点、金であれば、自然界にばら撒かれても、溶けだす事がほぼ無いため、動物が中毒を起こす恐れはありません。
又、前述の様に、金は鉛よりも密度が高いため、威力が低下するどころか、返って威力が増大します。(但し、射程距離は短くなります)
コストに関しては、金の粒を大量に作るのは、鉄の場合と同様に手間が掛かりますから、鉛よりは高コストになると思われます。
尤も、金は鉄よりは軟らかく、加工しやすいため、鉄よりは若干低コストになる可能性はあると思います。
尚、同じ弾丸の部類ではありますが、対戦車砲弾の材料としては金は向いておりません。
現代の対戦車砲弾は、タングステン合金やウラン合金等の様な密度の高い金属で出来ている細長い棒状の砲弾で、秒速1500~2000mという極めて高い速度で撃ち出されます。
弾丸の質量が大きい上に速度も極めて速いため、この弾丸が持っている運動量は非常に大きなものとなります。
そして、細い形状をしているため、標的に当たった際に、標的と接している正面部分の面積が小さくなりますから、狭い面積に、大きな衝撃力が集中する事になるため、標的と接している部分に極めて高い圧力を生み出す事になります。
この極めて高い圧力によって、装甲を構成している材料を変形させる事で、砲弾は装甲を貫通します。
ところが金製の対戦車砲弾の場合は、金があまりにも変形しやすいため、衝突部分の圧力が高くなる前に、砲弾の方が変形して折れ曲がってしまい、砲弾の持っていた運動量の多くが、砲弾の先端部分に伝わる事無く失われてしまうため、貫通力を得る事が出来ません。
仮に、折れ曲がらなかったとしても、金は鋼鉄等の装甲材と比べて変形しやすいため、圧力が高くなりますと、プレス機で金属板を変形させる際に、金属板が塑性変形するのと同じ様に、砲弾の先端部分の金が連続して塑性変形を起こして、まるで液体の様に流動する様になり、砲弾と装甲との間の隙間から流れ去ってしまうため、装甲を貫通する事が出来ません。
因みに、タングステン合金やウラン合金の場合、塑性変形が起き始める圧力が、装甲を構成している材料よりも高いため、砲弾よりも先に装甲材の方が流動化する事を利用して、対戦車砲弾は装甲を貫通しています。
それに、タングステンの密度は19.25g/cm3、ウランの密度は19.1g/cm3で、どちらも金と殆ど変わりのないほどの高い密度を持っていますから、これらを金で代替した処で、砲弾を重く出来る訳ではありません。
従って、対戦車砲弾の材質として金を使用する事は、デメリットしかもたらしません。
尚、対戦車砲弾としては廃れ始めてはいますが、対装甲用のミサイルの弾頭としては未だに使われ続けている、成型炸薬の先端部分には、凹んだ形に成形された金属板が使われていて、その金属板の素材として現在主に使われているのは銅合金などですが、この銅の代わりに金を使えば、金の高密度を生かして威力を増大させる事が出来る可能性はあるかも知れません。
尤も、コスト度外視の兵器においてすら、現実には金は(成型炸薬弾の材料として)使用されておりませんし、銅よりも高密度である鉛が使用されていない事から考えますと、単に高密度であれば良いという訳ではないと思われますので、成型炸薬弾に金を使用する事が威力を増大させる事に寄与しないという可能性も少なからずあると思います。
お礼
埋蔵量も鉄と同等と仮定した場合です ありがとうございました