「法律くらいの力」というのが、どのような意味かによります。
ある意味ではそうだとも言えますし、別の意味では違うとも言えます。
日本では原則として、明文化された法律、あるいは法律によって根拠を与えられたもの(政令、条例、慣習法等)以外には、法としての効力がないものとされています。
また、各裁判は全て独立して審議を行うものとされていますので、他の裁判所の判断に縛られることはありません(ただし差し戻し審などにおいて、同一の事件につき上級審が下した判断は下級審を拘束します:裁判所法4条)。
つまり下級審において、過去の判例を全く無視した判決を下すことは可能なわけです。
ということは、実際の訴訟においても、法律に反した主張はできませんが(してもほとんど無意味)、判例に反した主張にはいくらかの意味があると言えます。
この意味で「法律と同じくらいの力」とは言えません。
とはいえ、それなりの理由がない限り、判例と違った判決を下級審が下すことはあまりありません(裁判員裁判ではちょっと分かりませんが)。
上訴された場合に覆る可能性がかなり高く、無駄になってしまう恐れがあるからです。
従って、例えば裁判前の段階であっても、判例を根拠とした交渉等がなされることは多々あるでしょう。
なお、最高裁判例に反する判決は上告理由になります(民訴318条、刑訴405条)。
また、最高裁自身が判例変更するには、必ず15人全員で大法廷を開かなくてはいけません(裁判所法10条)。
これはかなり大がかりな作業ですので、年間でも数えるほどしか行われません。
これらのことからは、判例に全く力がないというわけでもなく、事実としてある程度の拘束力があると言えます。
また、極めてまれにではありますが、裁判所が法律に反した判決を下すこともあります。
法律を四角四面に適用してしまっては社会正義に著しく反するような場合で、このようなときは「違憲立法審査権(憲法81条)」「権利濫用無効(民法1条の3)」「公序良俗違反無効(同90条)」等を根拠として、法律の定めとは異なる判断を下します(俗に「伝家の宝刀を抜く」とも言いますが)。
この意味では、法律と判例の立場はやや近くなると言えます。
結論として、
・形式的には、あまり力はない(場合によっては完全無視も可能)。
・実質的には、法律(及び政令、条例等)にこそ及ばないものの、それなりの力はある。
といったところでしょうか。
お礼
Segenswindさん、詳しく、大変に勉強になるご回答ありがとうございました。