ひとつの作品を何人もの方が翻訳されてる場合がありますね。
たとえばオースティンの「高慢と偏見」などは知っているだけで五人ぐらいの人が翻訳されています。
しかしこれを全部読んだ人がいるかといえば、その数は非常に少ないでしょう。
結局は何かのキッカケで最初に手にとったものですべてを語ってしまうことになりかねないです。
そのことを承知のうえで紹介します。
「白鯨」を読んだのはかなり前です。当時はたしか岩波文庫だけしか無かったように思います。
それも現在の岩波版の訳者ではなく、阿部知二訳です。訳文はどちらかといえば古典的。
一番印象に残っているのは、所々に挿絵が入っていて、それも木版か銅版で彫られたような画で、
小説全体のイメージを随分盛り上げてくれた記憶があります。
現在はもう絶版でしょうが、ネット古書店などでは格安で販売されていると思います。
新訳のほうが資料も情報も新しい、活字ポイントも大きいので、その点では読みやすく、
新鮮さはあると思いますが、おすすめの「白鯨」となればこの文庫になります。
あとは蛇足ですけど、メルヴィルの作品は「白鯨」以外の他の作品もそうですが、聖書からの引用もおおく、
聖書を基としたような筋書きなどもあります。ですから、ひとつの章句のなかに多分に含みがあるので、
そのあたりの訳注の詳しい文庫がより理解しやすくなるのではと思います。
難解さも兼ね備えた名作ですね。