4ストロークエンジンにはバルブオーバーラップというものがあるのをご存知でしょうか?これは吸気・排気両方のバルブが開いた状態のことですが、エンジンが排気行程に入り排気バルブが開きピストンが上昇しながら燃焼ガスを排出していきますが、このときピストンが上がりきる手前で吸気バルブが開きだし、排気バルブはピストンが下がり始めてもしばらくの間も開いたままになります。この間は両方のバルブが開いたままになるのです。なぜこのようにするかと言うと、気体にも慣性があるのでこれを利用してできるだけ沢山の混合気を吸い込むと同時にできるだけ排気ガスを綺麗に排出するためです。排気バルブが開いて排気ガスが排気管の方に流れ出すと、排気ガスには勢いがあるため大気圧とシリンダー内の排気ガスの圧力が同じになっても、排気を吸い出す効果が生まれるためシリンダー内部は負圧(大気圧より低い圧力)になります。そこでこのタイミングにあわせて吸気バルブを開いてやればピストンが、まだ上昇を続けているうちから混合気を吸入する事ができるようになります。また、バルブの位置や燃焼室の形状をうまく設計してやると混合気で排気を押し出すこともできます。ただしこのためには排気管の長さや太さ形状がうまく設計されている必要が(十分な吸出し効果を得るためには排気ガスの流速が十分であり、バルブのタイミングとうまく同期する周期で共振する長さや、抵抗が少なく排気の妨げにならない必要があります)あります。マフラー無しでいきなり排気ポートから大気に開放してしまってはこの排気の勢いによる吸出し効果を利用できないばかりか、オーバーラップ時に排気ポートから空気を吸い込んでしまうことにもなりかねません。これではエンジンは十分な混合気を吸い込むこができず、排気ガスの完全な排出もできないことになり確実に出力は落ちてしまいます。
カブのような比較的低速型のエンジン(バルブオーバーラップが比較的小さい)でも体感できる程度の差が出るほどで、スポーツモデルなどの高回転高出力のエンジン(バルブオーバーラップが大きい)エンジンではもっと大きな差が出ます。F1やレーシングバイクなどでも消音効果というよりも出力向上のためにエンジンの排気ポートから一定の長さを持ったパイプをつけ、多気筒エンジンではそれをうまい具合に集合させてより一層の吸出し効果(多気筒ではあるシリンダー排気行程にあるときに他のシリンダーがバルブオーバーラップになるような時期があるので、他のシリンダーの排気ガスの勢いを利用してさらに吸出し効果をあげる)高めているのが普通です。
エンジンの給排気系統は吸気系の長さや容積、エンジンの排気量やバルブタイミング、排気系の長さや容積など多岐にわたる項目を加味した上で決められるものです。単に抵抗が少なければよいというものでは無いのです。実際には吸出し効果以外にも排気管内部での共振による反射(出口付近で排気ガスの圧力が跳ね返ってくること)によって排気バルブから勢いで出てきてしまう混合気を押し戻す(2ストロークエンジンで不可欠な要素ですが4ストロークエンジンでも利用されています)効果もあります。また、最近のエンジンではこれらの要素を総合的に利用し慣性過給(吸気や排気の慣性を利用しある一定の回転数でシリンダー容積以上に大量の混合気をシリンダーに充填すること)を利用している場合が多いのです。むやみに吸気系統や排気系統を変更するとパワーダウンになる場合も少なくありません。