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併合罪と公訴時効
併合罪についての質問です。 刑法第九条第四十七条(有期の懲役及び禁錮の加重)の項目に、 併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。 とあります。これによりますと、とある人物がこれまでに犯罪A:懲役10年以下、犯罪B:懲役5年以下、犯罪C:懲役3年以下の3種類の犯罪を起こしたと仮定したとき、その併合罪の長期は10+(10/2)=15年となるようです。 (当方素人ですので、ここですでに間違った解釈をしているかもしれません。もしそうでしたら、ご忠告ください。) ところで刑事訴訟法第二章第二百五十条に (公訴)時効は、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。 一 死刑に当たる罪については二十五年 二 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については十五年 三 長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については十年 四 長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年 五 長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年 六 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年 七 拘留又は科料に当たる罪については一年 とあります。 そこで質問なのですが、この場合の公訴時効は、 [1]併合罪の15年を元にこれまで犯した罪を一括してとる [2]犯罪A,B,Cそれぞれについてとる のどちらでしょうか。 また、仮に起訴された場合、裁判の判決は [1]併合罪でひとつの罪として、一括して出される [2]犯罪A,B,Cそれぞれについて判決を出し、それらを合算する のどちらでしょうか。 なにぶん素人ですので、詳しく教えていただけますと幸いです。 よろしくお願いいたします。
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#1です。 >高くついた窃盗 まあそういうことです。もっとも大概は探せば何らかの余罪が出てくるものですが。 >窃盗と監禁致死が同じ場面・時間で成立したとは考えがたいのですが、それでも併合罪として成立するのですね。 併合罪となる犯罪は相互に法律上はおろか事実上の関連すらある必要は全くありません。全く別の犯罪で構わないのです。例えば、平成19年1月1日拾った財布を着服した(遺失物等横領罪)と平成19年8月1日道端で人を殴った(暴行罪)と平成19年12月20日車で人を跳ねて怪我させた(自動車運転過失致傷罪)という場合でも併合罪にはなり得ます。 併合罪というのは、「訴訟で同時審判の可能性がある複数の犯罪」であればいいのです。そこで、「未だ確定裁判を受けていない数個の犯罪」または「禁錮以上の刑の確定裁判を受けた犯罪とその確定裁判"以前に犯した"犯罪」が併合罪になります。 前者は、裁判の時に同時に審判できる状態ですし、後者についても、もし仮に確定裁判以前に別の罪が発覚していれば同時審判ができたはずなのでいずれも「同時審判の可能性がある複数の犯罪」であるわけです。 なお、後者において確定裁判が罰金以下の場合を除いているのは、その場合には併合罪にしてもしなくても処断刑上は差が出ないからに過ぎません。 併合罪は「複数の犯罪を同時審判した時にそれぞれの刑の上限を加算すると幾らでも科刑の上限が増えるところ、それを懲役または禁錮に関して最も重い罪の5割増までに制限するもの」つまり「懲役又は禁錮刑の場合の科刑の上限を限定するためのもの」と考えることができます。そこで「軽微な余罪と合わせて実質的に法定刑以上の科刑を実現した」という点で併合罪の趣旨に反し、ひいては罪刑法定主義に反するのではないかということで前出の判例が問題となったのです。 この点について最高裁は罪刑法定主義違反とは考えていないことは間違いないのですが、では併合罪の趣旨をどう考えているのかという点については、実は判例を読んでも分かりません。併合罪規定だけの問題として考えれば最高裁の判断の方が素直だとは思うのですが、実質的に法定刑を超える科刑を実現するような併合罪の適用は罪刑法定主義に反するので違憲という方が理論的には納得がいくのが正直なところです。 刑事訴訟法的議論としては、このような起訴は公訴権濫用であるという処理も可能ではあると思いますが、そもそも公訴権濫用について裁判所が認めた例がない(あり得る事は最判でも認めているが、ほとんどありえない場合のみ)ので結局のところ実務上は問題にならないということになります。 >では、ひとつの行為が同時に2つ以上の罪にかかる場合は、併合罪になるのでしょうか。 それは併合罪にはなりません。 行為が一つで複数の犯罪に該当する場合は「観念的競合」と言い、科刑上一罪(文字通り、犯罪自体は複数成立しているが、科刑の上では一つだけとする)という扱いになります。実際に適用する罰条は、成立する犯罪の内最も法定刑の重い罪になります。 公訴時効は、それぞれについて考えても実際に適用になる一番重い罪のみで考えても事実上ほとんど変わることがないのではありますが、判例の立場ではあくまでも一つの犯罪として実際に適用になる一番重い罪についてのみ考えることになります。 #併合罪の公訴時効を論じるのは結構ですが、まず併合罪の何たるかを理解する方が先です。刑法総論の罪数論を勉強することをお勧めします。 >公訴時効は7年と判断してよろしいのでしょうか。 です。 法律では「以上」「以下」「未満」「超える」という表現は厳密に使い分けます。10年「以下」ということは、10年を含みます。10年「未満」は10年を含みません。4号の「長期十五年未満の懲役又は禁錮に当る罪」とは正確に言えば「長期十年以上十五年未満の(以下略)」です。 従って、10年「以下」の懲役は5号の「長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪」ではなく、4号の「長期十五年未満の懲役又は禁錮に当る罪」になるので公訴時効は7年です。
まず予備知識から。 それぞれの犯罪について刑法その他の刑事罰則規定で定めてある刑種及び範囲を「法定刑」と言います。 その法定刑を「実際の事件において」法律の規定に従い加重減軽して出てくる刑種及び範囲を「処断刑」と言います。世間ではこれを法定刑と言っていることがありますが法律的には間違いです。 処断刑の範囲内で実際に科すべき刑の範囲を決めることを「刑の量定=量刑」と呼び、量刑の結果、実際に判決で言渡す刑を「宣告刑」と言います。 さて、併合罪は元々「それぞれ別の犯罪」です。ですから当然、それぞれの罪について別個に時効が進行します。 更に、刑訴法252条に以下の規定があります。 刑法により刑を加重し、又は減軽すべき場合には、加重し、又は減軽しない刑に従つて、第二百五十条の規定を適用する。 併合罪は「刑法により刑を加重……すべき場合」なので「加重し……ない刑に従って」250条の規定を適用します。 よって、それぞれの犯罪について法定刑に従って別々に公訴時効は進行することになります。つまり[2]が正解。設例で言えば、A罪7年、B罪5年、C罪3年となります。 そして、併合罪として処理する場合は、併合罪加重を行って処断刑を定めてその範囲内で全体として一つの宣告刑を決めます。それぞれの罪について刑を決めてその合計を処断刑の範囲内に収めるのではありません。つまり、こちらは[1]が正解。なお、もし仮に一部の罪について時効が完成していれば、当然その分は併合罪加重できません(普通は起訴しません)。 この刑の量定方法が問題になったのが、富山かなんかの9年以上にわたって女児を監禁していた事件です。通常なら起訴猶予になるような窃盗罪(最長10年)と監禁致傷罪(当時は最長10年)とを併合罪で処理して14年の刑を科したのですが、もしそれぞれの罪について個別に刑を定めて合計したら監禁致傷罪で最長10年を科しても、窃盗罪が4年になるような内容ではないのでとても14年にはできません。実際、高裁では監禁致傷罪を10年、窃盗罪を1年として11年の懲役を言渡しました。しかし、最高裁は最初に15年(当時)の処断刑を定めその範囲内で刑の量定をすべきであるとし、原判決を破棄し一審の懲役14年を相当としたものです(最判平成15年7月10日)。 判決原文は以下。 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/2A4766F0AA881EE749256E6300267831.pdf
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丁寧なご回答ありがとうございます。 公訴時効は別々に進行、判決は併合罪として一括判決になるのですね。 お教えくださいましたリンク先の文面も読ませていただきました。窃盗の内容は軽微であっても、 併合罪=(窃盗罪+監禁致傷罪)=最高懲役15年 となり、懲役14年の判決となったわけですか。なるほど。 ところで、もし犯人が監禁致死罪しか犯していなかった場合は、最高でも懲役10年しか科されないことになります。そうなると、こんなことを申し上げるのもなんなのですが、高くついた窃盗・・・となりますね。 ところで、窃盗と監禁致死が同じ場面・時間で成立したとは考えがたいのですが、それでも併合罪として成立するのですね。では、ひとつの行為が同時に2つ以上の罪にかかる場合は、併合罪になるのでしょうか。 また、A罪は七年で公訴時効とご回答くださいましたが、条文には『10年<未満>』とあります。A罪は『10年<以下>の懲役』なのですが、公訴時効は7年と判断してよろしいのでしょうか。 たびたび申し訳ございませんが、ご回答くださいますと幸いです。 なにとぞよろしくお願いいたします。
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非常に良くわかりました。ありがとうございました。 迷惑ついでに、もうひとつお尋ねしたいことがあるのですが、刑法の中で (故意) 第三十八条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。 2 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。 3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。 とあります。2番目の「重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。」というのは、ひとつの犯罪を犯してそれが2つ以上の罪に引っかかったが、犯行時に重いほうの罪に引っかかるとは知らなかった場合、重いほうでは処分できない、という意味合いでしょうか。 度々申し訳ありませんが、回答いただけますと幸いです。 よろしくお願いいたします。