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物理化学の近似法
[一般教養]現代物理化学 という教科書をつかって勉強していますが 「他電子原子の電子構造」(持ってる人は9ページ) を説明する際に、 「電子間反発の項が含まれるためシュレディンガー方程式が厳密には解けなくなる。そのため近似を適用する。」 的なことがかかれてあって、 「原子全体の波動関数は個々の電子の波動関数の積として表され、 エネルギーは個々の電子のエネルギーの和として求められる。」 とかかれてます。なぜ波動関数は積で、エネルギーは和なのですか? 和なのはわかりますが、積になる意味がわかりません。よろしくお願いします
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> なぜ波動関数は積で、エネルギーは和なのですか? 電子間反発の項を、ある大胆な近似式で置き換えてシュレーディンガー方程式を解くと、そうなります。 ヘリウム原子を例に説明すると、ヘリウム原子のシュレーディンガー方程式は {h(1) + h(2) + Vee(1,2)} Ψ(1,2) = E Ψ(1,2) ・・・[1] のように書けます。ここで h(1) は1番目の電子の座標(x1,y1,z1)だけを含む演算子、 h(2) は2番目の電子の座標(x2,y2,z2)だけを含む演算子、 Vee(1,2) は1番目と2番目の電子の両方の座標を含む演算子、 Ψ(1,2) と E はヘリウム原子の波動関数とエネルギーです。 もし、この方程式の左辺の波動関数にかかる演算子が、1番目の電子の座標だけを含む演算子と2番目の電子の座標だけを含む演算子の和として書けているのなら、『変数分離(の方法)』と呼ばれる数学的な方法を使って、この方程式を解くことができます。 しかし、電子間反発の項Vee(1,2)は、 Vee(1,2) ∝ 1/√{(x1-x2)^2 + (y1-y2)^2 + (z1-z2)^2} という形になりますから、Vee(1,2)を1番目の電子の座標だけを含む項と2番目の電子の座標だけを含む項の和として書き表すことは、絶対にできません。絶対にできないのですけど、近似的でもいいから方程式[1]を解きたいので、この項を、1番目の電子の座標だけを含む項と2番目の電子の座標だけを含む項の和で近似します。 Vee(1,2) = v(1) + v(2) ..... 近似! この近似をすると、ヘリウム原子のシュレーディンガー方程式は {f(1) + f(2)} Ψ(1,2) = E Ψ(1,2) ・・・[2] という形になります。f(1) ≡ h(1) + v(1) は1番目の電子の座標だけを含む演算子、f(2) ≡ h(2) + v(2) は2番目の電子の座標だけを含む演算子です。 このシュレーディンガー方程式の近似式[2]は、左辺の波動関数にかかる演算子が、1番目の電子の座標だけを含む演算子と2番目の電子の座標だけを含む演算子の和として書けています。ここで変数分離の方法を使うと、この方程式を、1番目の電子の座標だけを含む方程式 f(1){a(1)} = A a(1) ・・・[3a] と、2番目の電子の座標だけを含む方程式 f(2){b(2)} = B b(2) ・・・[3b] に分離することができます[註1]。ここで a(1) と A は1番目の電子の波動関数とエネルギー、 b(2) と B は2番目の電子の波動関数とエネルギーです。 Vee(1,2)を v(1) + v(2) に置き換える近似と、変数分離の方法を使うことで、6個の変数(x1,y1,z1,x2,y2,z2)を含む方程式を解く問題を、それぞれ3個の変数を含む二つの方程式を解く問題に帰着することができました。解くべき方程式の数が一本から二本に増えるデメリットよりも、方程式一本あたりの変数が減るメリットの方がずっとずっと大きいので、『変数ごとに方程式を分離する方法』は、多電子原子の問題に限らず、物理化学のいろいろな問題を解くのに使われています。 方程式[3a]と[3b]が解ければ、これらの解の積 a(1)b(2) が、シュレーディンガー方程式の近似式[2]の解で、和 A+B がエネルギーに等しくなることが、次のように示されます[註2]。 {f(1) + f(2)}a(1)b(2) =f(1){a(1)b(2)} + f(2){a(1)b(2)} =b(2)f(1){a(1)} + a(1)f(2){b(2)} =b(2) A a(1) + a(1) B b(2) =(A + B) a(1)b(2) まとめると、「原子全体の波動関数は個々の電子の波動関数の積として表され」るのは、『そのような形の近似的な波動関数をここでは考えましょう』ということで、そのような近似的な波動関数を使うと「エネルギーは個々の電子のエネルギーの和として求められる」ということです。実際のところ、ここで使われている近似は、かなり大胆な近似で、近似の精度を少し上げると、波動関数は積で表されなくなりますし、エネルギーも個々の電子のエネルギーの和にはならなくなります。 つまり、「波動関数は積で、エネルギーは和」になるのはなぜ?という問いにひとことで答えると、『そういう近似法を使ったから』という、身もふたもない答えになります。つまらない回答でごめんなさい。 [註1]回答が長くなるので、ここの導出は割愛します。詳しくはアトキンス物理化学などをご覧ください。 [註2]式変形のポイントは、演算子f(1)を関数の積a(1)b(2)に作用させるとb(2)×f(1){a(1)}になる、ということでしょうか。詳しくは、微積分の教科書の偏微分に関する章をご覧ください。
お礼
たいへんわかりやすいです。ありがとうございました。おかげですっきりしました。