merlionXXです。
アルコールに対する嫌悪感を持つピューリタン(清教徒)の影響が強かったアメリカ合衆国において禁酒法が制定されたそもそもの動機は、宗教的理由に加え、男性が(不健全な)酒場に入り浸り家庭生活に支障をきたすことに対する女性からの批判がありました。
しかし、直接の原因となったのは一次世界大戦の開始にともない戦時の穀物不足を予防するという経済的な動機と、当時アメリカの酒造・酒販業界をおさえていた敵国ドイツ系移民への反発感情もあったと見ることも出来ます。
そして全米で適用するには憲法を修正しなくてはならず、そのために各州との妥協が行なわれ、そのあいだに動機の一つだった第一次大戦もドイツの敗北で終結してしまい、飲酒そのものは罪とならず、酒の製造・販売・運搬等が禁止されるにとどまる中途半端な法律となりました。(もっとも個人の飲酒まで禁止したら、そんな法律は通らなかったと思いますがね)
ですから飲酒する一般市民はもちろん法を犯してはいないし、当初の禁酒法推進論者の意向がどうであれ、法が飲酒を禁止していない以上、法の精神に背いているとはいえないと思います。
禁酒法の問題は以下のようなものだと思います。
・国境を接するカナダからの輸送を取り締まらなかった。この結果カナダ国内で合法的に製造販売された酒類はアメリカへと持ち込まれ、カナダ経済は非常に潤うという結果を生んだ。
・急募した禁酒法の執行官への待遇が悪かったため、質の悪い人間が多く、密売に関わるギャングに買収されたりした執行官が多かった。
・非衛生的な密造酒による健康問題が起きた。
・密売に関わり、ギャングやマフィア同士の抗争による治安の悪化が問題となった。
・不健全な酒場を廃止することが目的の一つだったのに、より不健全なヤミ(非合法)の酒場がかえって横行した。
・第一次大戦後の世界恐慌で景気が後退すると、禁酒法制定前には国家の歳入となった酒税が密売酒・密造酒からは取れないことが財政難の中で大きな問題になった。
補足
丁寧なご回答ありがとうございます。あともうひとつご意見いただきたいのですが、 違法行為はカポネだけで、一般市民は法を犯してはいないということになると思うのですが、しかしこれは法の精神に背いている感じだと思います。飲酒を戒め、健全な社会を作ることが法の基本精神だったのにカポネのような人間達が増え、一般市民の間に法を無視する風潮が蔓延している状態が法の矛盾、限界と考えてよいのでしょうか?