本来の定義としましては、
終身刑も無期刑も、刑に満期がなく、刑期が終生にわたるものをいいます。その刑期途中での仮釈放(刑期途中で仮に釈放する制度)のないもののみを終身刑というわけではないですし、あるもののみを無期刑というわけでもありません。
現地で採用されている語を直訳したとき、アジア圏では、無期刑という訳に、アジア圏以外では、終身刑という訳になるだけのことです。
たとえば、ドイツでは「Lebenslange Freiheitsstrafe」、イギリスでは「Life imprisonment」、ロシアでは「Пожизненное заключение」、中国では「无期徒刑」となります。
両者の違いは、本来的には、ただ単に、原語の違いのみです。
もっとも、マスコミなどは、終身刑を「恩赦がない限り一生刑務所」という意味で用いており、このため、学者や法曹などにも、一般認識に合わせて、仮釈放のないものを終身刑、あるものを無期刑と呼称している人がいますが、これはあまり好ましくありません。
日本の現行の無期刑には仮釈放(パロール)制度があり出所可能であるため、このことを、根拠に、「無期」を「期間を決めていない」という意味に読んででいるのでしょうが、無期刑の、「無期」というのは、無期謹慎などの「無期」とは異なり、「満期が無い」、つまり「一生」を意味しています。
「一生」を意味しているけれども、現行の無期刑には、仮釈放制度があるので、必ず一生刑務所にいなければならないというわけではなく、仮釈放で出てくる可能性があるということです。
# 「刑期を決めていない刑」のであれば、仮釈放(刑期途中で仮に釈放する制度)だけではなく、本釈放という形でも出所できるはずです。
# 仮釈放はあくまで「仮」であって、刑の執行の終了を意味するものではありません。
「無期だから仮釈放がある」「終身だから仮釈放がない」、というわけではありません(そもそも本来的には全く同じ意味で、英語ではどちらも「Life imprisonment」となるので)。
たとえば、中国の「无期徒刑(日本語訳:無期懲役)」には、殺人などの暴力犯罪の場合、仮釈放の可能性がなく減刑されない限り一生出所できませんが(中国刑法81条)、ドイツの「Lebenslange Freiheitsstrafe(日本語訳:終身刑)」は、15年服役後から仮釈放の可能性が生じ(ドイツ刑法典57条a-1項1号)、ロシアの「Пожизненное заключение(日本語訳:終身刑)」は、25年服役後から仮釈放の可能性が生じます。イギリスは法制が特殊なため説明は省略しますが、これにも仮釈放があります(ただし一部例外あり)。
ちなみに、先にも書きましたが、日本で一般的に「終身刑」と認識されているのは、(仮釈放の可能性がなく)恩赦などがない限り一生出所できない、「仮釈放のない終身刑(Life imprisonment without parole)」「仮釈放のない無期刑(Life imprisonment without parole)」のことで、これを置いているのは、アメリカの連邦および多くの州、オーストラリアの一部の州、中国、ハンガリー、オランダなどむしろ少数派です。
さて、本題の、懲役1000年ですが、このような刑が実際にそのまま執行される可能性があるのはnep0707さんもご指摘されている通り、アメリカの一部の州ぐらいしかないと思いますが、一応、説明しておきます。
「懲役1000年」という刑があったとして、
それが、法制上、生きている間に仮釈放される可能性のないような刑であれば、それは、事実上の「Life imprisonment without parole(LWOP)」であり、
生きている間に仮釈放される可能性のある刑であれば、それは、事実上の「Life imprisonment with parole」です。
また、それが、スペインのように、形式的な判決であって、法制上、実際は30年までしか刑の執行ができないのであれば、それは、事実上の「30 years imprisonment」です。そして、その場合において、仮釈放によって30年よりさらに早く出れる可能性がなければ、事実上の「30 years imprisonment without parole」であり、可能性があれば、事実上の「30 years imprisonment with parole」です。
# 仮釈放は近代国家にほぼ共通して存在する制度で、特に有期刑の場合、宣告された期間の全てについて、そのまま絶対的に拘禁している国はほとんどないです。
# もっとも、刑期より早く出れる制度は、「仮釈放(parole)」だけではなく、国によっても異なりますが、「恩赦」や「善時制度」(善時減刑)や「一定年限経過後の再審査による刑の見直し」などがある場合があり、「Life imprisonment without parole(LWOP)」であっても、そういった制度が置かれている法制の場合、出所の可能性もゼロではありません。積極的に適用されている場合は出所の可能性はさらに上がるでしょう。
例えば中国で殺人で「无期徒刑」になった場合、仮釈放の余地はありませんが、善時減刑により20年以下の有期刑に減刑される場合があり(中国刑法78条)、イギリスで裁判官に仮釈放の可能性を否定された場合(例外的な「Whole life」,例として2003年英国量刑ガイドライン附則21章は重大な複数謀殺に対しては最低服役期間を終生とすることを推奨している)も、恩赦の可能性があり、「25年経過後の再審査」によって仮釈放の可能性が与えられる可能性も残っています。
アメリカの長期有期刑においても、州によっては、仮釈放制度と善時制度などセットで活用されて刑期よりかなり早期に釈放されてうる場合もあるようです。