はじめまして。
外科の看護師をしております。
延命治療というと、急に何らかの事故や疾患などで脳死状態に陥ったり悪性腫瘍(がんですね)などで末期段階を迎えることによって循環や呼吸などが自力ではできなくなった場合に生命を維持するために行われるものだと思います(そういう前提でいいでしょうか)。
わたしが勤務上かかわる延命治療は、おもに元疾患の悪化によって
1)心臓の働きが弱まったときに行われる血圧を上げる薬剤の投与
2)呼吸が十分にできなくなったときに行われる人工呼吸器の装着
3)心臓停止時に行われる強心剤の投与と心臓マッサージ
などがメインです(以下もこれら勤務上でかかわるものでのお話です。脳障害などで意識はないがこれから回復しないとも限らないというケースはそれ自体がとても難しいので除外させてください)が、これらにも程度があって、状況やご希望に応じて行われます。徐々に病状が悪化した場合などにはそのほかさまざまな処置が行われます。またその場合には疾患によっても行われる延命治療は変わります。
ご質問の1)については、行われる延命治療の内容によってコストは大きく異なります。それが集中治療室で行われるのか、あるいは一般病棟で行われるのかによっても大きく変わります。また、延命治療が必ずしも長期の延命を約束するものではありません。とにかく死んでもらっては困る事情があると言われてやるだけのことを最大限にしても数時間しか延命できなかった、ということもあります。
コストをご家族の負担ということでお考えなら、収入にもよりますが高額医療制度を利用できるので、ある程度の自己負担であとは保険で賄われると思います。ただ、あとで還付されるということであっても当座に支払うお金が大きすぎて用意できないから延命治療を中断してほしいと言われたケースもあります。
2)については、統計をとったわけでないのでなんとも言えないのですが、現時点でご高齢の方、70代以上の方の多くが「医療は医者に任せるもので自分で考えるものではない」とお考えのようだという印象を受けます。また、「死については考えたくもない」と、普段から延命治療について話す機会を持つ方も少ないようで、ご家族もご本人のご意思を把握していらっしゃらないことが多いです。
これは病状告知ともかかわることなのですが、告知をするかどうか、医師によってはあらかじめご家族に「こういった状況ですが、ご本人にはどうお話をするかのご希望はありますか」とお伺いすることがあります。いろいろな事情から告知をしない場合、延命治療についてご本人が考える、あるいはそれをご家族に伝えるということもあまりないですから、やはり延命治療について、意識のあるうちに把握していることはまれです。
それよりもお若い方は「意識がなく、手を施しても回復する見込みがないのであれば、いつまでも生きながらえていてもしかたがない」とお考えの方を多く見受けます。また、そういった方がご家族として、既に意識がなくご自分で決めることができない方の代理として延命治療をしないよう希望されることも多いです。
話はそれますが、実際に延命治療について、職場以外の場で話を聞くと、ご高齢で戦中・戦後を経験していらっしゃる方には「長く生きていたい、何本管がついてもいいから、意識もなくていいから生かしてほしい」という方も時々います。これはわたしの私見ですが、環境などから生命の危機を経験された方ほど生命の大切さを深いところで感じ、「死にたくない」と強く感じるのではないかと思います。
末期のがんなどで徐々に意識が混濁し、これから数日のうちに容態の急変が予測される場合にはあらかじめご家族に蘇生処置のご希望を伺うことが多く、DNR(do not resuscitate)といって延命処置を希望されないケースが多いです。感覚的に言って8割強くらいでしょうか。また、そういった打診をしていない、予測がつかない急な容態の変化があった場合にはご家族が到着するまでできるだけのことをします。
成人・老年期の方のお世話しかしたことがないので、お子さんについてはよくわかりません。
3)どこまで悪化したら、というのは難しい話ですね。徹底的に延命してほしくて、人工透析を行い人工呼吸器を装着しても、心臓が疲れて止まってしまうとそれ以上は何もできないので…
さて、延命治療について、医師の考えというのはたしかに大きく影響します。手を施して本人の生命の質が上がるのなら何でもしよう、しかし意識がなく何かをしたからといってこの先この人が生を楽しむことがないのであれば、苦しい時間を延ばすのはどうだろうか、と考える医師が多く、その考え方がご家族とお話しするときに無意識であってもその方向に話を持っていかせてしまうことはあると思います。自分を神だと思っている医師も多くいますが、生命について深く考えて悩む医師も多くいます。
ただ、難しいことではありますが、普段から漠然とでも「意識がなくなって回復の見込みがないとき、時間を与えてほしいかどうか」についてご意見を持っていてそれを表明なさっていれば、医療者にそれを止める権利はありません。それがはっきりしていないからこそ、医療者は決断の助けになるための説明をします。
以上レポートの参考になれば幸いですが、ご自分だったら、ご家族にそういうことがあったらどうだろうと考える機会となさってくださいね。医療の質を変えていくのは、それを受ける人たちの声でもあると思います。
お礼
医療提供者の方の詳しいご説明ありがとうございました。今までは医療を受ける側の方からのお話でしたので、話が立体的になってきた気がします。 延命措置には他にもあることがわかりましたが、今回はその前提でお願いします。単に延命治療といっても症状や患者さんによって色々あるんですね。集中治療室で色々な機械に囲まれているのをずっと想像していました。 昭和天皇がお亡くなりになるとき、延命治療をしていたというのを聞きましたが、場合によってはそれも意味がない場合もあるんですね。 >コストをご家族の負担ということでお考えなら、収入にもよりますが高額医療制度を利用できるので、ある程度の自己負担であとは保険で賄われると思います。ただ、あとで還付されるということであっても当座に支払うお金が大きすぎて用意できないから延命治療を中断してほしいと言われたケースもあります。 なるほど。高額医療制度についても、どのような場合に適用されるか調べてみます。ご遺族の方のことを考えると、本当に辛かったでしょうね。大切な方の命がかかっていたのに。 (2について) これは以外な結果でした。自分は高齢な方ほど長く生きたから、最後は苦しまずに言い方は悪いかもしれませんが、引き際を潔くしたいという考えかと思っていましたが、どうやら違うようですね。若い世代の人のほうが命に対してドライなのかもしれません。 >さて、延命治療について、医師の考えというのはたしかに大きく影響します。手を施して本人の生命の質が上がるのなら何でもしよう、しかし意識がなく何かをしたからといってこの先この人が生を楽しむことがないのであれば、苦しい時間を延ばすのはどうだろうか、と考える医師が多く、その考え方がご家族とお話しするときに無意識であってもその方向に話を持っていかせてしまうことはあると思います。自分を神だと思っている医師も多くいますが、生命について深く考えて悩む医師も多くいます。 医師は現実的な判断で本人のためにそう考えていらっしゃるようですね。しかしご親類の方はなかなか死を受け入れられず、そこで葛藤が生まれんだと感じました。 本当に参考になりました。レポートは1枚でいいらしいのですが、客観的な意見と、主観的な意見を両方述べる方向でやっていこうと思います。 ありがとうございました。