科学的根拠を求めるとすれば,
自己注意(self-attention)ないし自己覚知(self-awareness)に関する社会心理学的研究でしょうか。
駅に設置された大きな鏡は自殺志願者に他者の視線を感じさせ,
他者の目に映る自分の姿を自覚させる効果が期待されています。
このような状態は公的自己覚知(public self-awareness)と呼ばれ,
TVモニターに映る自己像や録音された自分の声のフィードバックも類似の効果をもたらすとされます。
一方,個室に一人きりで鏡を見ているような状況では
私的自己覚知(private self-awareness)状態が喚起されるとされます。
自己覚知の研究は1970年代から80年代にかけてちょっとしたブームになり,多くの実験研究が行なわれました。
大方の一致した結論として,
公的自己覚知の状態にある人は他者の目を意識した印象操作や行動調整を行なうため,
規範への同調傾向が高まり,反社会的行動が減少するという知見が得られています。
理論的説明のほうは
認知的不協和理論の影響を受けた初期の動機づけ論
(自己覚知によって自己の現実と理想のズレが顕現化し,それに伴う不快感を低減しようとする動機づけが生じる)から,
セルフスキーマの概念を取り入れて精緻化された(≒複雑でわかりにくい)認知モデルへと移行していきましたが。
鏡の設置が自殺抑止にどの程度の効果を発揮したかについては明確な結論は得られていないようです。
というのも,鉄道各社は効果のありそうなものは何でもやってみるという姿勢で対策を講じたため,
自殺件数が減ったとしても,どの対策が功を奏したのかが不明のままだからです。
お礼
丁寧な回答ありがとうございます。 飛び込み自殺、減るとよいですね。興味をもったので自分でも少し勉強してみます。 ありがとうございました!