「アルツハイマーで、私の顔もわからない状態」は、法的に言うと「意思能力」がない状態といって、当たり前ですが、単独で法律関係を有効に成立させることができません(泥酔者や幼児も同様)。
泥酔者ならやがて回復しますが、認知症など疾患の場合はそうもいきません。
お父様の「アルツハイマーで、私の顔もわからない状態」が恒常的であれば、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状況にある者」(民法7条)に当たると思われます。
そうすると、#1の方もお書きの「成年後見制度」に基づき、家庭裁判所に成年後見人を付けてもらい、成年後見人がお父様に代わって、金の貸し借り(金銭消費貸借契約)も含め、法律行為を行うこととなります。これがベストです。
また、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状況にある者」というレベルに達していない場合でも、精神上の障害のレベルに応じ、保佐人、補助人といった人をつけることが可能です。
このような手続きを踏まないと、お父様には金の貸し借り(金銭消費貸借契約)をする能力がないのですから、そもそも契約自体が成立しません。つまり、借金をするという契約もないのに、勝手に通帳等を持ち出し、預金を引き出して使うことになりますからこれは基本的に違法(民事上は不法行為)と解されます。
仮に有効な遺言に、質問者さんに一定の財産を相続させる旨の記載があったとしても、遺言は、被相続人(お父様)が亡くなることによってはじめて効力が発生するものです(民法985条)。
お父様の生前に、推定相続人(相続人になると思われる人)が、遺言で指定された範囲内の財産を使うことを適法にする効力などありません。遺言を書いた人より先に推定相続人が死ぬこともあります。相続はあくまで、被相続人が亡くなった時に発生します。
なお念のために書きますと、成年後見人は家庭裁判所に付けてもらうことが必要です。勝手に周囲の人が「後見人」などと称する人を立ててもダメです。
また、#3の方の言うような「親族会議」なるものを開いて、その同意があったとしても、これをもって本人の意思に代替できません。つまり、法的には契約は無効で、そもそも債権債務関係は発生しません。親族(推定相続人)間のトラブルになりかねませんのでやらないで下さい。
また、遺言ですが、あくまで本人の意思に基づき作成されなければなりません。
これは借金のように、成年後見人が代わって行うことはできません。そして、もちろん、本人には意思能力が必要です。
さらに、遺言は、その様式が民法で厳格に決められており、この要件を欠けば、無効になることが少なくありません。
まず、質問者さんが「遺言書」と言われるものが、そもそも民法で定める様式を満たした遺言かご確認ください。
次に、それが様式を満たしているとしても、遺言作成時に、お父様に意思能力はあったのかご確認ください。すでにアルツハイマーにかかっていても、いわゆるボケの症状がおさまって物事が判断できる(意思能力がある)時に作成されたのなら有効とはいえますし、「父が書いた」ということなので、大丈夫とは思いますが、いざ相続となった際に、意思能力の有無をめぐって相続人間でトラブルになる可能性があり得るところです。
もちろん、意思能力がなければ無効です。相続人全員が同意しようと、本人の意思を代替することはできません。
なお、#4の方が、「成年被後見人など)であっても、遺言は制限されておらず可能です。」と書いておられ、リンク先の行政書士も同様のことを書いておられます。
誤解を招かないよう補足すると、成年後見人を付けられた人(成年被後見人)も、遺言は可能です。
しかし、遺言ができるのは、病状が一時的に回復したような場合に限られ、また、遺言をするにあたっても、医師2名の立会いを要するなど、手続的な制限も設けられています(民法973条)。
さらに、#4の方は「「生前贈与」と言う手もありますよ」と書いておられますが、贈与も契約です。意思能力がなければ契約は無効です。成年後見人を付けたとしても、成年後見人は、善良な管理者の注意義務というものを負いますので(民法852条、644条)、贈与は、売買などと異なり、もっぱら成年被後見人の財産を減らすという性質を有するため、難しいところがあるのではないかと思われます。
あと、余談ですが、内縁の妻は相続人にはなれません。ただ、遺言によって財産を遺贈されていれば、その財産を取得できます。
以上、民事上の話でした。
以下、刑事上の話です。
#2の方が、「そのまま「合意」なしで、貯金をおろすと親子間でも捕まる可能性が、あるようです(親告罪ですので「告訴」ない限り)」とお書きですが、これは#2の方の参考URLをよくお読みいただけばわかりますが、誤りです。
配偶者・直系血族・同居の親族の間であれば、「その刑を免除する」とされており、親子はこの中の「直系血族」に当たります。親告罪(告訴があり、有罪判決が出れば、処罰される)なのは、それ以外の親族間の話です。
また、確かに、質問者が勝手に通帳の持ち出すという行為、つまりお父様に対する窃盗があれば、これについては、刑の免除があります。
しかし、その後の、通帳等を使った銀行からの金の払い戻しについては、法的には、被害者は銀行と考えられています。ATMなどの機械で支払いを受けた場合は窃盗罪、窓口で銀行員を騙して(預金者を装って)支払いを受けた場合は詐欺罪に当たり、銀行とは親族ではありませんから、刑は免除されません。
(ただし、現実問題として、起訴に至るかは疑問ですが。)
なお、質問者さんが、意思能力のあるお父様から、「預金を適宜引き出してお父様のために使え」などと頼まれて通帳を渡されていたような場合には、銀行への詐欺罪等も、お父様への窃盗罪も問題になりません。自分のために引き出せば一応横領罪が問題になりますが、刑は免除されます(刑法255条、244条1項)。
お礼
わかりやすい説明ありがとうございました。 姉に、後見人になってもらうことを検討してみます。