1 被告が自分で弁護士に訴訟代理を頼まない限り、たとえば裁判所などの第三者がその被告に訴訟代理人を就けることはできないというのが大原則です。例外として、「特別代理人」という制度もありますが(民事訴訟法35条、37条)、これは「法定代理人がない未成年者や成年被後見人」、「代理権を行使できない法定代理人しか就いていない未成年者や成年被後見人」、「代表者が死亡して後任が選任される可能性の乏しい法人」などを相手に訴訟を提起する場合であり、しかも特に緊急性のある場合にしか認められないものです。ご相談の事案の詳細は不明ですが、経過からすれば「特別代理人」の選任要件を満たしていないケースのように思われます。結論として、被告以外の外部の力で被告に代理人を就けて裁判を進めることは難しいと思います。
2 では、裁判が事実上ストップした状態のまま、被告が退院するまで手をこまねいて見ているしかないのでしょうか?次に考えるべきは、「被告が入院したままで裁判を進行させる方法はないか?」ということです。考えられる方法として、いくつかご紹介しておきます。
(1) 少しでも仮病が疑われる場合には、被告の自主申告ではなく、裁判所から直接入院先の病院に対して被告の病状や退院予定時期などを確認してもらう(調査嘱託)。裁判所も「仮病ではないか」との疑いを持てば、以後は厳しい訴訟指揮を行うようになるでしょう。
(2) 裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため、色々な処分を行うことができます。これを「釈明処分」と言います(民事訴訟法151条)。詳しくは条文をお読みいただきたいのですが、その一つとして「当事者本人又はその法定代理人に対し、口頭弁論の期日に出頭することを命ずること」も認められています。本当に出頭できない病状かもしれませんので、いきなり出頭を命じて貰うことは無理ですので、これは、上記(1)の調査の結果仮病の疑いがあるような場合に釈明処分を発動して貰うというのが効果的でしょう。
(3) 次回期日を長めに指定し、それまでに反論等を提出せよと被告に要請してもらい、そのような機会があったのに誠実に対応しなかった場合には(このような不毛な手順を2~3回繰り返した後)、「何度機会を与えても誠実に対応しない。そのことから意図的な進行妨害であることが明白である。それゆえ、審理を打ち切って判決を言い渡して欲しい」と要求する。被告の不誠実対応を理由にした弁論終結・判決言渡しという手法です。
(4) 「口頭弁論」ではなく「弁論準備」の形式で期日を指定して貰うと、電話会議という形式で手続を進行させることができる。これは、原告だけが裁判所に出頭し、裁判所の法廷から被告の病室に電話をかけてもらい、法廷にいる裁判官・原告と病室にいる被告とが同時に話せる電話サービスを利用して手続を進めるというもの。また、裁判所と原告が病室に出向いていって、そこで弁論準備手続期日を行うという方法も訴訟法上は可能です。
要するに、代理人を就けさせることばかりお考えになるのではなく、代理人なし&入院したままで手続を進められるワザがいくつかあるということです。では、どのワザを使えば良いのかはケースバイケース。裁判所とよくご相談下さい。
お礼
丁寧に回答いただきありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。