急降下爆撃機を重用、というか偏重したのはドイツ空軍だけです。ご存知スツーカですね。
ドイツ軍は、空軍を「空飛ぶ砲兵」としたのです。ドイツ軍は戦車を重視して、電撃戦というやつをしましたでしょ。戦車は機動力を重視していたので、砲撃力は弱かったのです。2号戦車は機銃しかなかったし、3号戦車の初期型も37ミリ砲しか積んでいなかった。当時の基準でも攻撃力が低かったのです。だから戦車程度では敵陣地を突破することはできない。そのためには砲撃の支援が不可欠だったのです。けれど、装甲(戦車)部隊が突破しちゃうと馬で引っ張る砲兵部隊が戦車の機動力についていけない。本当は砲兵部隊を自走砲にしたいけれどそこまで予算がない。装甲部隊が敵を突破した先の戦闘支援をどうしようかという問題を「じゃあ、空軍が砲兵部隊の代わりになって支援すればいい」と考えたのです。そのための戦術支援ですから、大きな爆撃機でバラバラ爆弾を落としたら非効率極まりないので、敵陣地や敵戦車に的確に攻撃ができる急降下爆撃機が一番使い勝手が良かったのです。
装甲部隊とスツーカの組合せは、1940年の対仏電撃戦で大成功を収めました。
一方、イギリス空軍は空飛ぶ砲兵という役割は求められませんでした。爆撃については重爆撃機の任務だったのです。アブロ・ランカスターなんかがそうです。
けれど戦術支援空軍は必要ではあったので、それは馬力がある戦闘機に爆弾やロケット砲を搭載する「戦闘攻撃機」を使いました。
アメリカ陸軍航空隊もイギリス空軍と同じような路線で、戦術支援はP-47サンダーボルトなどが担いました。
一方、太平洋戦線では空母の戦いとなったわけで、空母艦載機は双発の大型爆撃機なんてのは搭載できませんね。単発の爆撃機となったわけで、そうなると命中率が高い急降下爆撃機が重宝されることになります。特に陸上目標と違って艦船は動いて回避しますから、命中率が高い急降下爆撃がいいに決まっていますよね。
ただし、一直線に目標に急降下する急降下爆撃機は対空射撃しやすい目標です。だから損耗率も高くなります。
しかし実際のところ、ほとんどの海戦では勝敗を決したのは急降下爆撃機でなく、雷撃機だったのです。空母や戦艦のような大型艦は、喫水線下に穴を開けられないと沈まなかったんですよ。また急降下爆撃機は大型爆弾を積載できません。日本海軍の九九艦爆ですと、250キロ爆弾しか積めないんですね。これは戦艦の装甲を貫くことができないのです。だから九九艦爆は、相手が戦艦だと無力なのです。
魚雷が当たると船はかしぎます。そうなるともう発着艦が不可能になりますから、軍艦としての能力を失うことになりますよね。しかし雷撃機は超低空を敵艦に向かって水平飛行しますから、これは戦闘機にとってはおあつらえ向きの目標になります。なので日米両軍とも、雷撃機の損耗率というのは「海戦が終わればほぼ全滅」というレベルでした。特に日本海軍は南太平洋海戦が終わると雷撃ができる熟練パイロットがいなくなりました。なので、南太平洋海戦以降に日本軍はアメリカ軍空母を航空攻撃で撃沈することができなくなります。喫水線から上をいくらボコボコにしても大型軍艦は沈まないのです。
ミッドウェー海戦では、日本海軍はアメリカ軍の急降下爆撃だけで空母を失ってしまいますが、これは甲板が穴だらけになって火災がひどくなったからです。アメリカ海軍だったら、赤城は生き残ったでしょうね。
また珊瑚海海戦で急降下爆撃を受けたヨークタウンにもし雷撃が成功していたら、少なくともミッドウェー海戦には間に合わなかったことは確実で、沈没(破棄)していた可能性も高かったと思います。
ちなみにソ連軍は「全縦深突破」という野心的なドクトリンに基づいていたので、空軍も独特の発展をしていました。最も重視されていたのが敵空軍の破壊で、次が敵の陸上兵力による反撃への対処でした。この敵陸上兵力の反撃への対処として開発されたのがあのシュトルモヴィークです。対空砲火を浴びる可能性が高い任務なので、頑丈に作られたのです。
お礼
丁寧なご回答をいただき、ありがとうございました。雷撃機の重要性が良く理解できました。