励起子は伝導帯の電子と価電子帯の正孔がクーロン力で互いに引き合って結合した複合粒子です。自由励起子では、その重心は結晶中を自由に動きます。一方、相対運動に関して、電子と正孔を互いに引き離すのに必要なエネルギーを励起子束縛エネルギーと呼び、結合の強さの目安を与えます。束縛エネルギーが大きい励起子ほど電子と正孔間の相対距離が小さくなります。
さて、励起子では電子と正孔が互いに近くにいるので、再結合の確率は、自由電子と自由正孔の(偶然の)出会いよりはずっと高く、より高い発光効率が期待できます。ここで大事なのは、通常の半導体素子は有限温度の環境にあるため、室温では約30meV程度の熱的刺激を頻繁に受けることです。したがってこの熱エネルギーよりも小さい励起子束縛エネルギーをもつ半導体では、室温では励起子はほとんど熱解離を起こしていて存在せず、励起子消滅による効率の良い発光は期待できません(たとえばGaAs系など)。一方、GaN、ZnOなどは30meVを超える励起子束縛エネルギーをもつため、室温でも励起子が存在し、より高い発光効率をもつ半導体素子が得られるのではと期待され、近年盛んに研究されています。なお、GaN系はすでに実用化はされていますが、実際の発光過程が励起子消滅なのか、電子・正孔再結合なのかは良くは判っていません。また、t-ripperさんの回答にある「束縛励起子」という言葉は、励起子が(励起子のidentityをもったまま)不純物・欠陥に捕まったものを示します。すなわち重心運動が束縛されたものです。
お礼
大変詳しく答えていただいてありがとうございます。 もやもやしていたものがすっきりしました。