倫理的な側面からいえば、「条文にない」 からしないとか、「条文にある」 からするとかいうのとは次元が異なります。あなたが友人に何かあるものを貸していて、友人がそれを紛失したか盗まれたかしたとします。友人はそのものに相当する対価もしくは同等の物品をあなたに返却するかもしれませんが、黙って渡すでしょうか。盗まれた場合には、悪いのはその盗んだやつだから、友人はあなたに何も言わなくてもいいでしょうか。
何も言わなくても法律には抵触しません。ただ、あなたからすれば、その友人に対する信頼はなくなるでしょう。
個人情報をある企業に教えることは、あなたの私的な情報という財産を、その企業を信頼して預ける、という行為です。あなたがその情報を抹消してくれという要求をすれば、その企業はあなたの情報を抹消します。その情報に関する所有権はあなたにあるのと同じです。その情報が外部に流出したということは、あなたから預かっていたものを失くしたのと同じことになります。コピーできるものだからといって、その 内容 について、あなたのものであるという事実が消えるわけではありません。
他人から預かったものは、そのものの所有者がそうするであろうと同等の注意をもって保管しなければならないというのは、民法に規定されているところで、これは基本理念なので、いちいちの契約において明記する必要がありません。契約である以上、守って当然のこととされているからです。「民法」 は基本法なのです。対して 「個人情報保護法」 は、民法の規定の範囲の中に置かれているものです。民法の事項を重複して記することはしません。
預かった個人情報は厳格に管理して、外部に漏れるようなことがないようにするという前提で得た個人情報を漏洩させた以上、何らかの責任を取らねばなりません。ただ、流出した個人情報を消してしまうことは不可能なので、利用者にはパスワードの変更などをお願いする必要が生じます。「謝罪をする」 という形で、漏洩したという事実を公表し、かつ利用者にお願いするための準備とするわけです。企業は社会的な存在であり、個人間の貸し借りとは違った側面がありますから。
お礼
大変わかりやすく丁寧なご説明に感謝します。 法的には民法の委任が根拠となると理解しました。 自主的に謝罪するかしないかは企業文化ですね。 実は、マンション管理会社のフロントマンが組合情報(個人情報が入)を紛失したと社員から内部告発がありました。支店長に経緯の説明、謝罪をを求めましたが拒否されてしまいました。紛失はなかったと言い張るのみでした。